「デッキ構築に必要な理屈」
最初の手札7枚や次に引くドローがどんなカードなのかはわからない。だが、それを確率を求めることによって推測することは可能だ。デッキ構築時にこのことを念頭に置くことで、確実に展開するデッキというのが構築可能になる。
(1)デッキの枚数
デッキの枚数については、構築環境では60枚以上と定められいる。しかし、ほとんどのトーナメントデッキは、最小枚数である60枚で構築されている。これには2つの理由がある。
1つは、同じカードが4枚までしか入らないと言う制限と関係がある。あるカードをデッキの主軸としていた場合、デッキ枚数が60枚と80枚では、そのカードを引ける確率や引ける枚数が大きく違ってくる。3ターン目までに引ける確率が、60枚デッキの時は53%もあるのに対し、80枚デッキでは43%にまで減ってしまう。
もう1つの理由は、デッキ内に偏った部分が出来るのを防ぐためだ。充分にシャッフルしたのにもかかわらず、土地ばっかりの部分や土地が全くない部分が出てしまう。これは仕方のないことなのだが、デッキの枚数が多いほど偏りが出やすくなる。これは数学的に証明可能だが、面倒なのでここで割愛する。
故に、トーナメントデッキは60枚で構築される。
(2)土地枚数の決定
土地の枚数については、勘や経験を頼りに決定している人が多い。全部で何枚入れるか、2色以上のデッキなら各色のマナが出る土地を何枚ずつ入れるか。これらの問題も、確率によって決定できる。
Xターン目にY枚の土地が80%の確率で手札にくるには、デッキ60枚中に何枚の土地を入れればよいかを求めたものが下の表である。ここで80%としたのは、5デュエル中4回という確率だからである。5デュエルと言えば、2本先取のトーナメントで2マッチ分に相当する。この内の1回が予想より少ない枚数になる。この程度ならなんとかなると判断した。これよりも精度を上げることもできるが、そうするとデッキ中の土地枚数が多くなり過ぎ、今度は逆に土地以外のカードが無くて負ける。
全体のマナ数と各色のマナ数についてこの表を見て、土地の枚数と配分を決定する。例えば、“神の怒り”や“ジェラードの知恵(WL)”を使うカウンターデッキの場合、デッキが回るのには全部で4マナ、白マナが2つと青マナが2つ必要である。4マナの欄を見ていくと、3ターン目に27枚とある。これでは土地が多すぎるし、白いカードはそんなに早く使う必要もない。5ターン目を見ると24枚とあるので、こちらを採用する。このとき2マナの欄は13枚なので、白マナの方はこれを採用する。カウンターはもう少し早いターンから使いたいので、2ターン目の17枚を採用する。全部で24枚の土地を入れ、この内、白マナが出る土地を13枚、青マナが出る土地を17枚入れればよいと言う結論になる。これは基本地形だけでは実現できないので、“アダーカーの荒野”や“真鍮の都”といった2種類以上のマナが出る土地でこれを補う。(実際には“アダーカーの荒野”4枚、“サラカスの低地(TE)”2枚、島11枚、平原7枚を入れた)
この表を見れば、WL以降に台頭してきた5色デッキが回るのも理解できる。5色とも出る土地が3種類*4枚=12枚入るなら、1ターン目からどのマナの利用できるのだ。
なお、この表は土地だけに利用できるものではない。クリーチャーやカウンターなどの枚数を求めるのにも使用できる。
Mana\Turn | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 12 | 11 | 10 | 9 | 8 | 7 | 7 | 6 | 6 | 5 | 5 | 5 |
2 | - | 19 | 17 | 16 | 15 | 13 | 12 | 12 | 11 | 10 | 9 | 9 |
3 | - | - | 25 | 22 | 21 | 19 | 18 | 16 | 15 | 14 | 14 | 13 |
4 | - | - | - | 27 | 26 | 24 | 23 | 21 | 20 | 19 | 17 | 17 |
5 | - | - | - | - | 32 | 30 | 27 | 26 | 24 | 23 | 21 | 20 |
(3)マナ・カーブ
デッキ中のカードを総コスト別に分類して、枚数を数えてグラフにしてみたものを「マナ・カーブ」と言う。大抵のトーナメントデッキは2マナか4マナの部分が非常に多くなっている。アドバンテージ獲得型のデッキにはその傾向が強い。
コストが安いものは多く、コストの高いものは少なくなるように配分しているグラフを特に「スライのマナ・カーブ」と言う。デッキ構築の名手シュナイダー考案し構築した、マナカーブ理論に従った赤単デッキでスライ氏がトーナメントで成功して以来、速度を求めるデッキはこのマナ・カーブに従った構成をするようになってきた。
これは、手札とマナを効率よく使い切るのには最適なパターンである。土地は1ターンに1回しか置けないし、毎ターン置く土地が手札にあるわけではない。コストの安いものほど使う機会は多くなる。ターンが進んでからでないと使えない、コストの高いカードは序盤から多く手札にあっても使えないので無駄である。
(4)デッキの圧縮
理想的な展開には次のようなパターンがある。序盤は毎ターン土地を場に出したいので土地をドローし、必要な量のマナが確保できたなら、土地以外のカードをドローする。また、また、キーカードとなるカードはなるべく早く引きたい。
相手より多くドローすれば、これらが実現できる。後半で土地を引く確率は同じだが、引く枚数が多ければ土地を引いたときのデメリットが少なくなる。また、ライブラリから不要のカード(=土地)を抜き出したり、有効なカードをライブラリに加えたりすることで、良いドローを実現できる。
そういった手段を「デッキの圧縮」と言う。
(5)デッキタイプの選択(速攻ダメージ型かアドバンテージ獲得型か)
トーナメントデッキを作るとき、まず最初に考えるのが「どうやって勝つか」である。ダメージを与えるかライブラリを削るかというレベルの選択だけではない。もっと具体的に何をして勝つかである。
勝ち方は色々とあるが、大まかに分けて2つの流れがある。1つは全てのリソースを効率よくダメージに変えて、素早く相手を倒すもの。これを「速攻ダメージ型」と呼ぶことにする。もう1つは、どれかのリソースで圧倒的なアドバンテージを獲得し、物量差で押して勝つもの。こちらは「アドバンテージ獲得型」と呼ぶことにする。
速攻ダメージ型は、ウイニーや赤単バーンなどである。ダメージを速攻で与えていくことで、相手は本来なら自分が勝つために使うリソースを、負けを回避するために使わざるを得なくなる。
使うカードは3マナ以下で対マナ効果が高いものが選ばれる。また、マナカーブに従ったデッキ配分になっている。これは、序盤からデッキを展開させる事を目的としているが、マナ拘束や手札破壊などに耐性を持たせる効果もある。
デッキに入っているカードのほとんどがダメージを与えるカードであり、そうでないカードは除去カードである。これは、防御クリーチャーや防御円などの、ダメージを与えるのを邪魔するカードを除去するのが目的である。
土地の枚数も少な目に見積もっている。これは、デッキがまわるのに必要なマナが3マナ程度であり、それ以上の土地は不要カードになるからである。
このタイプにはリソースを獲得するカードは基本的に入れない。そんな事に使うリソースがあるなら、相手のライフを削るのに使う方が良い。それゆえ、ターンが進むとリソースが乏しくなってくる。最後のライフ数点を削れずに負けるというのは、よくある負けパターンである。これを打破するために劇的なアドバンテージ獲得カードを数枚入れておくこともある。“ネクロポーテンス”“墓石の階段(MI)”“ハルマゲドン”などがその代表である。
アドバンテージ獲得型では、デッキの大半が相手のリソースを奪うカードである。幾つかのキーカードに依存するパターンのものは、それを守るためにカウンターを入れている場合もある。また、そういうカードを効率よく手に入れるために、デッキの圧縮を行う場合もある。
勝つ為に使うカードはかなり少なく、4枚以下である。アドバンテージを獲得したなら、相手の行動はほぼ無効化できるから、少ないカードで勝てるのである。
最後に両者を上手に融合させたデッキタイプも存在することを指摘しておく。例えば、ウイニーに“ハルマゲドン”と“貿易風ライダー”を組み込んで「マナ・オーバーロード」ができるようにしてある5色系のデッキがそれにあたる。