「上手なプレイングのためのリソース論」

 マジックの強さを決めるのは、デッキ構築能力とプレイングの上手さである。デッキ構築に関しては別の文章で述べているのでそちらを参照してもらいたい。この文章では、主にプレイングの技術に関係する事を述べる。
 プレイングは、色々な要素が絡むものである。ルールの知識・カードの知識・相手のデッキを推理する能力や相手の行動を予測する能力など、経験がものを言う場合もある。だが、上手な人と下手な人を決定的に分けているのは「マジックをどういう風に捉えているか」である。

(1)「リソース」「アドバンテージ」とは何か
 マジックを始めた時に持つ印象は「クリーチャーの殴り合いをして相手のライフを削った方が勝つゲーム」と言うものであるだろうが、それは1つの断面に過ぎない。クリーチャーを出すには、召還カードかアーティファクト・クリーチャーのカードを手札にし、マナを支払わなければならない。マナを支払うには土地を用意しないとならない。土地も手札から出すもので、その行為は1ターンに1回しかできない。クリーチャーを出しても、そのターンの間には攻撃できず、次のターン以降まで待たないとならない。また、防御側にクリーチャーがいる場合、攻撃してもダメージを与えられるとは限らない。ブロッカーとなりそうなクリーチャーは除去した方が良いだろう。除去するには手札とマナが必要で・・
 この様に、マジックで何かするのには、様々な要素が絡んでくる。こういった行動に必要な要素を「リソース」と呼び、各リソースの多さから生じる有利さを「アドバンテージ」と言う。この2つ、最初のうちは同義語であると考えて良い。これは、RPGマガジンに鶴田慶之氏と中村聡氏が連載している「鶴田・中村の免許皆伝」で使った用語である。マジックのプレーヤーに広く流布しているので、この文章でもこれに習うことにする。が、その解釈が異なっている部分もある。その記事は『デュエリスト・ジャパンvol.1』にも収録されているので、そちらも併読することを薦める。役に立たないマジック関連の出版物が多い中、彼らの記事は、『Duelist』誌やバクスターの戦術書の和訳と並んで、数少ない、読む価値のある文書である。
 リソースとは行動に必要な要素と述べた。では、具体的には何がリソースに該当するか。この章の最初の段落をもう1度、読んでみよう。何となく、クリーチャーや手札、マナや土地、ターンなんかがリソースっぽく思える。
 では、次の章から、何がどういう理由でリソースであるか、系統的に解説していこう。

(2)カード・アドバンテージ
 マジックのカード1枚1枚は、1つのパーマネントになり、1つの行動になる。カードがなければ何も行動できない。つまりカードはリソースなのだ。リソースとなっているカードの多さがカード・アドバンテージである。
 リソースとしてのカードは、手札にあるものと、パーマネントして場にあるものの2つに大別される。フェーズアウトしているものは、次のターンには場に戻ってくるので、パーマネントに含めて良い。だが、墓地にあるものは、普通は場や手札に戻ったりしないので、カード・アドバンテージを考えるときのリソースとして考えない。

(2−1)手札(ハンド)
 ソーサリー・インスタント・インターラプトなどのカードは手札にあるときだけがリソースとなる。パーマネントとなるクリーチャーやランド・アーティファクト・エンチャントも同じくリソースである。
 これらは、行動の回数や可能性に過ぎない。ハンド・アドバンテージが直接に勝利へ直結することはない。これを別のリソースへ変換してやらないとならない。
 手札は、ゲーム開始時に7枚与えられ、自分のターンが来る毎に1枚づつ補充される。これは、両者とも同じ条件である。ただし、最初にターンを得るプレーヤーは、有利さの代償として、第1ターンのみ手札の補給がなくなる。

(2−2)パーマネント
 手札にあるカードは、何らかのコストを支払う(=リソースを消費する)ことで場に出てパーマネントになる。パーマネントは、常に何らかの効果を発生させ続けたり、好きなタイミングで何かの効果を発生させたりする事ができる。ソーサリー・インスタント・インターラプトが使ったその瞬間だけしか効果を及ぼさないのと比べると、強力であるといえる。

(2−2−3)クリーチャー
 クリーチャーは、ダメージを与える為の基本的なパーマネントである。と同時に、相手の攻撃を防ぐのにも利用できる。基本的に、相手よりクリーチャーの数が多ければ、相手にダメージを与えることができるし、こちらがダメージを受けることはない(戦闘の結果クリーチャーの数がどう変化するか考えず、攻撃クリーチャー1体にブロッククリーチャー1体を割り振った場合)。
 トークンクリーチャーはカードではないが、カードのクリーチャーと等価である。手札を消費せずにクリーチャーを生成するカードは、かなり強力なカード・アドバンテージをもたらすと言えるだろう。
 ダメージはゲームの勝敗に直結するため、クリーチャーはパーマネントの中ではかなり重要なリソースであるといえる。

(2−2−3)土地
 パーマネントとなった土地の数は、1ターンに使えるマナの数を意味する。そして、その数によって、使える手札やパーマネントの数が決まる。行動の回数だけではない。1度に運用できるマナの数は、行使できるカードの強さにも影響する。1マナで呼べるクリーチャーと5マナで呼べるクリーチャーでは、その強さには大きな違いがある。
 場に出ている土地の数は、クリーチャーと同等かそれ以上に重要なリソースなのである。

(3)ターン・アドバンテージ
 ターンを得ること自体もリソースである。そして、ターンの一部であるフェーズを得ることもリソースである。逆説的だが、ターンやフェースを飛ばすことをコストとするカードの存在が、これらがリソースであることを示している。
 では、ターンやフェーズの何がリソースなのであろうか。
 アンタップフェーズには全てのパーマネントがアンタップする。ドローフェーズには1枚ドローする。メインフェーズには土地を1枚だけ場に出すことができ、戦闘を1回だけ行うことができ、ソーサリーやクリーチャー・アーティファクト・エンチャントを使用する機会が与えられる。クリーンナップフェーズには全てのクリーチャーに与えられたダメージが回復する。
 これら全てが、ターンを得ることで獲得できるリソースである。ターンは全プレーヤーが平等になるよう、交互に得る。

(3−1)ドロー
 ドローフェーズには手札が1枚増える。ターン(フェーズ)を得ることでカード(ハンド)アドバンテージを得る。
 だが、ドローする事は、純粋にハンド・アドバンテージを増やす以外にも意味合いがある。
 Xターン目において両プレーヤーは7+X/2枚(端数切り捨て)のカードをドローしている。その中には、デッキ全体の比率に応じてクリーチャーや土地などが混じっている。土地の枚数はそのまま使えるマナの数であり、これは使えるカードの強さに直結するので非常に重要である。土地以外にも、キーカードを引いた枚数なども重要となる。これらの枚数は、引いた枚数にデッキ中の比率を掛け合わせれば期待値が求まる。
 キャントリップやデッキ回転カードでより多くのカードを引いているのなら、得たターンやハンド・アドバンテージが同じでも、土地やキーカードの数が多くなる。逆に、今までに引いたカードをライブラリのトップに戻されて再びドローしたなら、ターンやハンド・アドバンテージは同じでも土地やキーカードの数が少なくなる。
 ドローはハンド・アドバンテージの獲得としかみられていないが、何を引いたかも重要な要素である。実際に10回ドローしたのに、そのうち5枚が過去に引いたカードを戻されたものであるなら、ドローを5回したのと同じ内容のカードしか手札に来なかったことになる。逆に、その間に2回“大慌ての捜索(UL)”を使ったなら、6枚分も余計にライブラリから引いたことになる。手札に入る候補としてライブラリから参照した枚数は、実質的にドローした枚数「実質ドロー数」というリソースであると言える(このリソースは本質的に減りはしない。だが、手札や墓地のカードをライブラリのトップに戻す事やドローフェーズにカードを引かせない事で、増やさせない事が可能である)。

(3−2)アンタップ(マナ)
 クリーチャーを攻撃や防御に使うには、アンタップ状態でないとならない。攻撃するときや一部の能力を使うときは、コストとしてクリーチャーをタップする。クリーチャーは、自分のターンに攻撃しつつ同時に相手のターンに防御する、という事はできない。攻撃するか防御するかどちらか一方にしか使えない。攻撃かタップする能力を使うかも同じである。能力を使うときにタップするのは土地やアーティファクトも同様である。
 パーマネントがアンタップしている、また、アンタップする事はリソースである。
 特に土地のアンタップは、1ターンに使えるマナ数を決定するので、非常に重要となる。土地以外にもマナソースとなるパーマネントはある。1ターンに使えるマナの数は重要なリソース(マナ・アドバンテージ)であるが、その本質はマナを生成するパーマネントの数とアンタップである。
 また、召還酔いに影響されているクリーチャーはアンタップ状態にもかかわらず、攻撃に参加したりタップ能力を使ったりはできない。召還酔いの影響を取り除いてやるのは、アンタップする事と同じくらいのアドバンテージを得ていることになる。

(3−3)メインフェーズの行動
 マナソースやファストエフェクトはほぼいつでも使えるのに対し、メインフェーズでしかできない行動もある。「土地を置く」「戦闘をする」「ソーサリー・クリーチャー・アーティファクト・エンチャントを使う」がそれにあたる。これら行動を行う権利と言う意味合いであり、実行するには他の適切なリソースが必要である。

 土地を置くのは1ターンに1回しかできない。マナ・アドバンテージが増えるのは1ターンに最大1マナまででとなる。基本的にこれが問題となるのは、手札に土地が沢山ある序盤だけなので、これがリソースであると認識している人は少ないだろう。
 戦闘は、ダメージを与える最も基本的な手段だ。これは、1ターンに1回しか行えない。
 また、戦闘を行うのはフェーズの移動を伴う。フェーズが移るときはマナ・バーンのチェックやライフ喪失による敗北のチェックを行う。これらのチェックのために、攻撃するクリーチャーがいないにもかかわらず戦闘を行う事も可能だ。この事をヌル・アタックと言う。

 「ソーサリー・クリーチャー・アーティファクト・エンチャントが使える」と言う事がリソースである、と言う考えは馴染まないものかもしれない。だが、“中断(WL)”を使われると、ソーサリーが使えなくなる。また、手札にクリーチャーカードがありコストとなるマナを賄うことができるのにもかかわらず、相手の戦闘フェイズにはクリーチャーを召還することはできない。やはり、この権利はリソースとして考えて良いだろう。
 ちなみに、“中断(WL)”を使われると、インスタントやインターラプトなども使えなくなる。ほとんど何時でも使えたファストエフェクトの権利もまた、リソースであったと言えるだろう。

(4)その他のリソース
 カードとターン以外にもリソースと見なせるのもがある。特に勝利条件と密接な関係のあるリソース、その損失がゲームの敗北に直結するだけに注意が必要である。

(4−1)ライフ
 ライフは、単に自分がゲームに負けていないかを表すだけの指標ではない。ライフを何点か支払って何かをする、というカードは沢山あるし、ライフを獲得する為のカードもある。
 ライフが無くなることはゲームの敗北に直結するので、ライフをリソースとして使う場合、ある程度は高いものとしてみなさないとならないだろう。だが、相手が敗北条件を満たしさえすれば、こちらのライフは1点だけで十分だ。

(4−2)ライブラリ
 ライブラリをリソースとしてみるのは、ドローするときに引くべきカードがあるかどうかと言うことだ。つまり、敗北条件を満たすかどうかと言う問題である。これが問題となるのはかなり特殊なデッキだけである。幸いなことに、その頃にはかなりの量があるであろう墓地を、ライブラリに変換してくれるカードが幾つか存在する。

(4−3)墓地
 墓地は、使い終わったソーサリー・インスタント・インターラプトや、除去されたパーマネント・手札が置かれる場所である。だが稀に、墓地のカードを手札や場に移したり、墓地にある特定カードを数えたり、墓地のカードをコストとしてゲームから取り除いたりする。
 そういったカードは、墓地をリソースとして利用しているものであると言える。

(4−4)情報
 プレーヤーが知らない情報は幾つかある。コイントスの結果の様なランダムに決まるものや、対戦相手が次のターンにする行動のように定まっていないものは、論理的に知ることができない。
 だが、相手のデッキ内容・次にドローするカード・相手の現在の手札など、決まっているにもかかわらず知らないものもある。これらを知ったなら、より効率の良い行動を選択できる。
 これらの情報は、無くても選択可能な行動は変わらないものの、あると非常に有利になるので、リソースに含めて良いだろう。

(5)リソースの変換
 2〜4章では、リソースを説明するために原則的な話を展開してきた。読者の中には「この部分の記述はあるカードを使えば違ってくる」とお思いの方がいるかもしれない。説明のために必要な場合を除いて、その点を指摘するのは意図的に避けてきた。
 そういうカードは、リソースを得たり奪ったりするカードなのである。厳密に言うと、カードを使用するのには手札とコストが必要ので、リソースを変換するカードである。例えば、ターン・アドバンテージの説明でターンは全プレーヤーへ交互に与えられると説明したが、“時間のねじれ(TE)”や"Time Walk(絶版)"を使えば1ターン余計に得られる。これは、手札とマナを1ターンに変換したのだと言える。
 カードや効果によっては、変換前と変換後に同じリソースがある場合もある。この場合はそれは相殺して考える。“暗黒の儀式”は黒マナ1つと手札1枚を黒マナ3つに変換する。これは、手札1枚を黒マナ2つに変換したと考えて良い。“霊感”は4マナと手札1枚を手札2枚に変換する。これは、4マナを手札1枚に変換した事になる。
 カード・アドバンテージに関するリソース変換を意識している人は結構いるが、ターン・アドバンテージに関するリソース変換はそれほど意識されていない。と言うか、カード・アドバンテージのバランスが取れてきたミラージュブロック以降、ターン・アドバンテージも重要視されるようになってきた。
 カウンターは、手札1枚とマナをいくらか使った相手の行動を、1枚のカウンター呪文といくらかのマナで打ち消す。リソース的にはほぼ等価であり、より悪い結果をもたらす事を防ぐために使われた。“記憶の欠落”の場合、打ち消した相手の呪文がライブラリのトップに戻り次のターンにはまた使われるので、その場しのぎをしたに過ぎないと、悪い評価を与えられていた。だが、カード・アドバンテージでは等価(お互いに1枚の手札を失っている)な上、相手の実質ドロー枚数を1枚減らす。実質的に1ターン分行動が遅れるのだ。カウンター呪文としてではなく、ターン・アドバンテージを獲得する手段として“記憶の欠落”は再評価されているのだ。
 また、“再送”や“ブーメラン”など「手札に戻す」カードも、実質的に手札からパーマネントに変換するためのコストに相当するリソースを奪っている事になる(クリーチャーに対して使えば、召還酔いの影響も与えることができる)。使い切りであったこれらのパーマネントは、カード・アドバンテージを失うのであんまり使われないが、“大クラゲ(VI)”“転覆(TE)”“貿易風ライダー(TE)”などは、カード・アドバンテージを失わずに相手からターン・アドバンテージを奪えるので多用されている。特に土地に使った場合、効果が高い。また、手札ではなくライブラリのトップに戻す事で、カード・アドバンテージ的に等価でドローまでも破壊する“時の引き潮(TE)”も、ターン・アドバンテージ的に見ると強いと言える。
 この様に、行動によってリソースがどのように変換されるかは、しっかりと把握しておかないとならない。

(6)効率の良いプレイングの為に
 「上手なプレイング」の正体は「リソース面で効率の良いプレイング」である。破壊されるのが確定したパーマネントを生け贄に捧げて何かする。“悪疫”を使われた時、手札やライフや各種パーマネントが3の倍数になるように調整する。ファストエフェクトを相手のディスカード・フェーズに使用する。これらは、失われるリソースを有効活用すると言う意味で、上手なプレイングである。
 また、火力呪文は相手にダメージを与えるためにも使えるが、こちらに攻撃するクリーチャーがいる場合、相手のクリーチャーを除去するのに使って防御できるクリーチャーを無くしてしまえば、結果的により多くのダメージを与えることが出来るだろう。それを見越して火力呪文をプレーヤーに使わずに保持しておくのもまた、上手なプレイングである。
 他にも例が沢山あると思うが、それを列挙する余裕ない。常に行動を各種リソースの観点から考え、最も効率が良くなるように選択する事が、プレイング上達のための近道である。


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