トーナメントで上位入賞をしたデッキ(以下、トーナメントデッキ)をたくさん集めて比べてみると、使用しているカードが一部のカードに偏っていることが解る。スタンダードの一番少ない時ですら1000枚を超えるカードがあるのに、その中わずか1割程度のカードだけでほとんどのトーナメントデッキを構築する事ができる。
例えば赤いデッキのダメージ呪文。使用頻度が高いものは“ショック(ST)””渇き(UL)”“焚きつけ(TE)”“地震”である。同じインスタント呪文でも“雷撃破(TE)”の使用頻度は前述のものと比べると低く、“ふにゃふにゃ(TE)”“インフェルノ””降り注ぐ火の粉(US)”はほとんど使用されない。また、インスタント呪文とX点呪文を比べてみると圧倒的にインスタント呪文の方が多い。インスタント呪文は10枚以上入っている場合が多いのに対し、X点呪文は多くても2枚程度である。
青のカウンター呪文でも同じ事が言える。“対抗呪文”“マナ漏出(ST)””禁止(EX)””まき直し(US)"は使用頻度が高く、”無効(US)””魔力消沈”“記憶の欠落””放逐(TE)”“奪取”が中程度、“霊魂放逐”“呪文破”””誤算(UL)”などはほとんど使われない。白のエンチャント・アーティファクト除去呪文にも同じ事が言えて、“解呪”は使用頻度が高いが、“神への捧げ物”“穏やかな捧げ物(TE)”“静寂”などは使用頻度が低い。
マジックのカードには強弱の差がはっきりと存在する。上の例で同程度の頻度として列挙したカードの間にも差はあり、ここではほぼその順に並んでいる。
トーナメントデッキは真に強いカードで構成されている。もちろん、強いカードを集めただけで勝てると言う訳でもない事は事実だ。が、漠然と強いカードを知っている事より、カードの強弱がどの様な理屈から決定されるかを知ることは、マジックが強くなるための必要条件であるといえる。自分のデッキでより必要な選ぶ時や新しいエキスパンションが出たとき、制限環境でデッキを組むときなどに役に立ってくれるであろう。
(1)キャスティング・コスト
どんなに強力なカードでも、使えなら意味がない。ズバリ「デュエルに勝つ」という効果のカードがあったとしても、コストが「5色のマナを3つづつとそれを生み出した土地を全て犠牲に捧げる」なんてものであったら誰も使わない。それができるようになる前に、相手に殺されてしまうからだ。
(1−1)総コスト
カードのコストは実はバラエティに富んでいる。0マナでキャストできるものもあれば、10マナ以上必要な物まである。だが、トーナメントデッキでは2マナ以下のカードがメインであり、4マナ以下のカードでほとんど構成されている。5〜6マナのカードが数枚入っている場合もあるが、それを超えるコストのカードが入っている事はまずない。
コストは安ければ安い程よい。当たり前の事なのだが、これが徹底されている。2マナというのは、ほとんど2ターン目には得られるマナ数である。2マナのカードがメインというとは、デッキがすぐにまわり出すことを意味する。また、4マナというのは土地が24枚なら6ターン目、土地20枚でも8ターン目にはほぼ確保できるマナ数(75%程度の確率)である。さすがにこのターンまで生き延びられないなんて事はあまりない。
トーナメントデッキは速さとの戦いでもある。早いターンに自分のデッキがまわらないと話にならない。また、土地破壊やプリズンなど、戦術として相手のマナを拘束してくる場合が多いので、それへの耐性としてコストの安い呪文で構成されているのだ。
(1−2)コスト中の色マナ
総コストも大事だが、それ以上にコスト中に含まれる色マナの数も重要である。同じ4マナでも(赤3)と(赤赤赤1)では使い易さは全然違う。色マナへの依存度が高い程、使用できる可能性が減ってしまうからだ。
デッキでメインとなっている色のカードでも色マナの数は2つまでである。3つ以上を必要とする呪文は単色デッキでも滅多に入らない。メインとなっていない色の場合はさらに厳しく、2色しか使わないデッキでも5色全部使うデッキでも、色マナの数は1つだけのカードがほとんどである。
普通、メインとなっている色が出る土地は15枚以上は入っている。その為2〜3ターン目には色マナを2つそろえる事ができる。だが、2色目以降は10枚程度しか入らない。色マナ1つなら1〜2ターンで揃うものの、2つ目が出るのは8ターン目辺りになってしまう。最近流行の5色デッキの場合5色土地は6〜8枚しか入らず、色マナ2つを揃えるには12ターン以上かかってしまう。
それゆえ、色マナへの依存は低いほど良いのである。色マナが1つだけなら使い易い良いカードで、3つ以上では使い物にならない駄目なカードである。
(1−3)マナでないコスト
マナ以外のものをコストとして支払うことで少ないマナ、場合によってはマナを全く使わずに使うことができるカードがある。そういうカードは対カード効果が悪いにもかかわらず良いカードである。ゲームに勝利してしまえば対カード効果の悪さななど関係ない。1ターン差の攻防をしている場合、こういうカードで少しでも多くの行動をすることが重要である。また、マナ拘束系を相手にした場合、相手の妨害を回避して使用できる。
(2)対カード効果
ゲーム中で得られる手札の数はどのプレーヤーも基本的に同数である。よって、1枚のカードで相手のカード複数分の働きをするなら、その差の分だけ多く行動ができる事になる。
(2−1)複数の対象
単純な事だが、対象が複数にできる呪文は対カード効果が高い。最も、複数の対象を取るものは使用するための条件が揃いにくいと言う欠点も持っている。同じ理由で2枚の手札を奪う“呆然(MI)”“苦悶の記憶(WL)”も対カード効果が高いと言える。ただ、“焼けこげた土地(TE)”“断念(TE)”などはコストとして対象と同じ枚数を捨てないとならないので、逆に1枚分対カード効果が低くなっている。
(2−2)全体破壊
上と同じ理由で、全ての〜を破壊する(ダメージを与える)と言うものは対カード効果が高い。“神の怒り”“ラースの風(TE)”“ハルマゲドン”“地震”“ジョークルホープス”などである。ただ、“黙示録(TE)”は同時に自分の手札も全部捨てるので、逆に相手に手札がある分、対カード効果は高くない。
(2−3)キャントリップ・バイバック
効果の一部としてカードを1枚引くキャントリップ。同じく効果の一部として手札に戻るバイバック。どちらも使用したにもかかわらず手札が減らないという意味で、対カード効率が良い呪文である。
同様に、“衝動(VI)”や“夢での蓄え”も手札の減らないと言う点で対カード効率の良いデッキ回転カードである。また、マナを支払うことで手札に戻ってくる“ボガーダンの鎚”も強力なカードであるといえよう。
(2−4)同時に複数の効果をもたらすカード
出てくる時にクリーチャーを除去する“骨砕き(UL)”。アーティファクトを壊す“ウークタビー・オラウータン”やエンチャントを壊す“雲を追う鷲(TE)”。除去カードの効果と召還カードの効果を併せ持つこれらのカードは、1枚で2枚分の働きをするという意味で対カード効率の良いカードである。
同様なカードとして、クリーチャーであり非常時にはライフ獲得手段になる“ボトル・ノーム(TE)””レディアントの竜騎兵(UL)”やダメージ手段かつライフ獲得手段になる“生命吸収”系のカード、カウンター呪文であると同時に相手のマナ拘束になる“魔力消沈”などが挙げられる。
(2−5)効果の大きさ
これは、1枚のカードで与えるダメージの量が多いか、ということである。1枚のカードで6点のダメージを与えられるなら、それは1枚のカードで3点しか与えられないカード2枚分の働きをしていると言える。
火力呪文同士なら、与えるダメージの多い方がカード効率がよいと言えるし、クリーチャーなら、パワーが高い方が効率良いと言える。また、恒久的にダメージを与えられるパーマネントと、使ったときしかダメージを与えないインスタント・ソーサリーを比べると、最終的に多くのダメージを与えられるパーマネントの方が効率よいと言える。
(3) 対コスト効率
同じ事ができるならコストが安い方が良い。また、同じコストできるなら効果の高い方が良い。
(3−1)クリーチャーの対コスト効果
実際にトーナメントデッキに入るレベルの対コスト効率を持ったクリーチャーとなると「2マナでパワー2の特殊能力を持ったクリーチャー」「4マナで4/4以上」が目安となる。クリーチャー全体から見るとこれは対コスト効果が高い部類に入るが、良いカードを選り集めて使うトーナメントデッキではこれが標準である。
(3−2)ダメージ呪文の対コスト効果
ダメージ呪文の対コスト効果を考えるのは簡単だ。与えるダメージをコストで割って、1マナ当たりのダメージ数を計算してみればよい。1マナで1点を上回るダメージを与えられるなら、それは効率が良いと言える。
逆に、X点呪文はXの値をどう設定しても1点ダメージ与えるのに1マナ以上を必要としていて、ダメージ数が決まっているインスタント呪文の方と比べると効率が悪い。
(4)汎用性
デッキに入れる事のできるカードの枚数、特にサイドボードに入る枚数には限りがある。1つのカードが多くの目的で使えるのであれば、デッキに入れなければならないカードの種類が減る。その分より充実したデッキになる。
(4−1)複数の効果
白いカードである“神への捧げ物”はアーティファクトを破壊し“穏やかな捧げ物(TE)”はエンチャントを破壊する。白以外の色から見れば喉から手が出るほど欲しい効果を持ったカードであるが、白を使うプレーヤーは滅多にこれらのカードを使わない。何故なら、白にはこの2つの効果を併せ持った“解呪”があるからだ。
“神への捧げ物”と“穏やかな捧げ物(TE)”を2枚づつ入れるよりは“解呪”を4枚入れた方が良い。エンチャントが壊したいのに“神への捧げ物”が来ても意味がなく、逆もまた同じ。デッキによってはエンチャントは壊す必要がないけどアーティファクトはたくさん壊さないとならない、なんて場合も“解呪”が4枚なら融通が利く。
ダメージ呪文もプレーヤーとクリーチャーの両方に打てるという意味で便利である。クリーチャー除去に使えるし、最後の数ライフを削ってデュエルに勝利する事にも使える。クリーチャーのいないデッキと対戦する場合はそれが顕著で、他のクリーチャー除去カードなら無駄になるが、ダメージ呪文ならば完全な無駄カードにはならない。
(4−2)対象選択の自由度
対象にできるものに条件があるものは、確実にその目的を果たせない場合がある。
例えばクリーチャー除去呪文。“闇への追放(TE)”の様に黒いクリーチャーが対象にできなかったり“死の一撃(ST)”の様にタップされているクリーチャーだけが対象だったりする場合、対象に条件のない“平和の道(UL)”と比べるとクリーチャーを除去できる場面が少なくなる。特に“闇への追放(TE)”の場合、黒単デッキが相手の場合、完全な無駄カードになってしまう場合が多い。
また、特に対象の限定がないカードでも「色が付いている」という時点で特定色のプロテクションを持つクリーチャーに効かない。「対象を取っている」と言う段階で“マローの魔術師ムルタニ(UL)”など呪文の対象にならないクリーチャーに効かない。そういう意味で、色を持たないカードや対象を取らないカードはより汎用性があると言える。
(4−3)カードの速度
同じ効果を持つカードでも速度がソーサリーかインスタントかでは使い勝手がかなり違う。ソーサリーでは相手のターンには使えない。相手が召還酔いに影響されないクリーチャーを使っている場合、除去カードの速度がソーサリーかインスタントかで殴られる回数が1回違ってくる。
ソーサリーは自分のターンでも戦闘中には使えないし、相手のインスタントに対応して使うこともできない。また、インスタントなら相手のターンエンドにも使え、隙を作らないと同時に無駄となるマナの有効活用ができる。