多段デッキの確率論

TCGのデッキ構築の際に、確率の検討は欠かせない要素である。デッキ総数をA枚で構築た場合その中に何をB枚入れれば、C枚のカードを引いた段階で目的のカードを入手できる確率はD%である、と言うことは簡単な計算をすれば直ちに判明する。

多段デッキを組む際、各段のブレイクを何枚入れるかは、非常に頭の痛い問題である。 だから、確率計算という数学的武器を手に、この問題に対する1つの回答を探ることにしよう。

指標として、デッキから30枚のカードを引いた時に多段ブレイクに必要なカードが全て揃う確率を計算してみることにする。30枚という枚数は60枚デッキで言うとデッキの半分。チャージやダメージ判定で消費した分を考えても残りデッキ枚数は20枚はあると考えて良い。これは、多段ブレイクが完成した後で相手を殴り倒せるギリギリのデッキの残り枚数だと言えよう(実践的なプレーヤーにすると、低すぎるハードルかも知れない)。
言い換えるなら、理想的な展開をした場合の5ターン目を想定している(初手に7枚、1ターン目のドローフェーズに1枚引いた後にドロー+1を1体支配、2ターン目に2枚引いた後に、ドロー+1キャラクターをもう1体支配して場にノルン”ウルド”が出たと考える)。

60枚のデッキに4枚投入しているカードがある場合、ここから1枚のカードを引いてそのカードを引かない確率は「それ以外のカードの枚数 ÷ デッキの残り枚数」で求められる(少数点以下4桁目で四捨五入、以下同様)。

 56÷60=0.933 ・・・(1)

同様に、1枚引かれて59枚になったデッキからもう1枚引いて、またも4枚投入のカードを引かない確率は以下の式となる

 55÷59=0.932 ・・・(2)

2枚引いて、2枚ともが4枚投入のカードでない確率は「(1)×(2)」で求められる。

 0.933×0.932=0.870 ・・・(3)

逆に、2枚引いて4枚投入のカードを1枚以上引く確率は「1−(3)」で求められる。

 1−0.870=0.130 ・・・(4)

同様に計算していくと、60枚のデッキから30枚を引いた場合に、4枚投入しているカードが1枚以上手札に来る確率は95.1%、3枚投入なら89.3%、2枚投入ならちょっと下がって77.1%である。
注目すべきは、4枚投入した場合と3枚投入の場合の差が5%しかない事。これは、言い換えるなら20回に1回しか4枚目を投入した恩恵を受けないと言うことだ。1回のゲームで1枚だけ引ければ良いネームレベルのブレイクを3枚に抑える構築には、それなりの確率的な裏付けがあると言える。

では、この値を参考に、まずは3段ブレイクに必要な3枚を引ける確率を検討してみよう。これは「1段目を引く確率×2段目を引く確率×3段目を引く確率」で求められる。
3段階とも4枚投入の場合、以下となる。

 0.951×0.951×0.951=0.861 ・・・(5)

以下に、各段の投入枚数別の、3段が3枚とも揃う確率を算出して示す。組み合わせの表記は『1段目の枚数−2段目の枚数−3段目の枚数』である。

4−4−4(12枚) 86.1%
4−4−3(11枚) 80.8%
4−3−3(10枚) 75.9%
4−4−2(10枚) 69.7%
3−3−3( 9枚) 71.3%
4−3−2( 9枚) 65.5%

4枚と3枚で構成される組み合わせなら、全体の投入枚数を1枚増やすと揃う確率が5%上がると考えて良い。3段目を2枚に押さえた場合、同じ枚数を均等に振り分けた場合と比べて、3枚とも揃う確率が6%も落ちる(もちろん、2段目までが揃う確率が向上すると言うメリットがある)。
だが、3段とも4枚投入した場合でも86.1%、裏を返すと14%弱の確率で揃わない。これは7回に1回の確率で揃わない事を意味する。フリープレーで回すなら良いが、優勝するには全勝する必要がある大会では、不安が残る値である。
2回の対戦で2回とも3段が揃う確率は「1回の対戦で3段が揃う確率×1回の対戦で3段が揃う確率」で求められる。

 0.861×0.861=0.741 ・・・(6)

同様に、3回の対戦で3回とも3段が揃う確率は「1回の対戦で3段が揃う確率×1回の対戦で3段が揃う確率×1回の対戦で3段が揃う確率」で求められる。
以下に示すのは、86.1%の確率で揃う3段デッキを回した場合、全ての対戦で3段が揃う確率を算定した結果である。

3回戦 63.8%
4回戦 54.9%
5回戦 47.3%
6回戦 40.7%
7回戦 35.0%
8回戦 30.2%
9回戦 26.0%

6回の対戦で6回とも揃う確率は40.7%。大会に5回参加しても、その内の3回は、どこかの対戦で「3段が揃わない」と言う事故に見舞われるのだ。ましてや、アクエリアンコロシアムなどの全国レベルの大会はシングルエルミネーションで9回戦ぐらい。苦労して出場権を得たとしても、全ての対戦で「3段が揃わない」と言う事故を起こさないで済むのは4回に1回だけである。


次に、同じ計算を2段ブレイクで行ってみる。

4−4(8枚) 90.5%
4−3(7枚) 85.0%
3−3(6枚) 79.8%

1段4枚・2段3枚の構成は、3段を全て4枚積みの構成と時とほぼ同じ確率で全段が揃う。全段4枚積みの構成で全段が毎回揃う確率は以下となる。

2回戦 81.9%
3回戦 74.1%
4回戦 67.7%
5回戦 60.7%
6回戦 54.9%
7回戦 49.7%
8回戦 45.0%
9回戦 40.7%v

3段の時よりはマシだが、やはり6回戦やれば1回くらいは揃わない事故に見舞われる可能性が2大会に1回はある。


多段ブレイクという選択を捨てて、1段のブレイクを使った場合はどうであろうか。
フィニッシャーとなるブレイクを4枚にした場合、毎回、引ける確率は以下になる。

2回戦 90.5%
3回戦 86.0%
4回戦 81.9%
5回戦 77.9%
6回戦 74.1%
7回戦 70.5%
8回戦 67.1%
9回戦 63.8%

6回戦の大会にでて、フィニッシャーを引けないと言う事故が起きるのは4大会に1回。これは、かなり信頼度の高いデッキだと言えるのでないだろうか?


多段ブレイクと同じ枚数をフィニッシャーに割くなら、1段のブレイクを2種類以上選択肢して、合計で7枚入れた場合はどうだろうか。この場合、7枚の内いずれかを引ける確率は99.6%である。

2回戦 99.2%
3回戦 98.8%
4回戦 98.4%
5回戦 98.0%
6回戦 97.6%
7回戦 97.2%
8回戦 96.8%
9回戦 96.4%

この算出結果は『引けないと言う事故とは無縁』とも言うべき値ではないだろうか?


なお、ワントップデッキで、フィニッシャーとなるブレイクに何らかのパーマネントを付けて完成、と言う場合、もう1段階上があるブレイクと見なさいとならない。凪巫女”鹿島 栞”に布津乃御魂剣を付けるなら、2段ブレイクと考えて確率を考えるべきだし、サイコパス”外園 今日子”にスパークリング・プラズマを付けるデッキの場合、3段ブレイクと見なして確率を考えないとならない。もちろん、これらのパーマネントは朱雀の巫女”大島 桜子”やメイド長”佐々原 藍子”と言ったサブアタッカーとなるブレイクにも付けても良いので、単純な多段デッキよりは柔軟性が高く、事故となる確率は低くなる。

最後に付け加えると、この論証は単純に多段ブレイクが揃う確率を算定したものであり、キャラクター事故・ドロー事故・ファクター事故などでプレイできないと言う可能性は排除している。よって、実際にデッキが機能する確率となると、これらの事故の可能性を加味しないとならず、さらに悪い数値となる。

今回の論は敢えて結論を書かない。ここに示された数値が全てである。


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