その1:Zur's Weirding
古い話で恐縮だが、アイスエイジが発売された直後、"Jester's Cap","Jester's Mask(IA)"," Endenering Renewal(IA)"と共にHJの勝手な判断で制限カードとされていた事がある。それほど強力な能力を秘めたカードなのである。
また、キャスティングコストは3青で、青マナへの依存が少なく総コストも4マナない。トーナメントデッキで使える重さであり、青が補助のデッキにもたやすく入る。
だが、どうして未だ2流レア扱いなのか?答えは単純で、使いこなせる人が少ないからである。それほど使い方の難しいカードなのだ。
効果を確認しよう。カードの要点は2つある。「全てのプレーヤーは手札を公開してプレーする」「誰かがカードをドローした場合、対戦相手は2ライフを支払って、引いてきたカードを捨てさせる事ができる」 1つ目の方は簡単に理解できるが、2つ目の効果を理解するのが難しい。
まず、ルール上の問題を片づけておく。2つ目の効果は、カードをドローする事に対するトリガード・エフェクトである。ドローを含む効果(大抵の場合はドロー・フェーズのドローだが、これだけではない)が解決された直後にライフの支払いとディスカードが行われる。この間、インスタントで応じる事はできない。捨てるべきカードを使ってしまう事はできないし、支払いに必要なライフを何らかの手段で獲得する事もできない(つまり、残り1ライフの時に“ボトル・ノーム(TP)”を生け贄に捧げてから支払う、と言う事はできないのだ。ちなみに、残り2ライフなら、支払った後に3ライフ獲得する、と言う事は可能である)。
より複雑なのは(最近では滅多に見なくなってしまったが)“森の知恵”が出ている場合の処理。通常のドローの処理と“森の知恵”の処理は別々に行わなければならない。また、“森の知恵”の処理は、2枚のカードを引いた直後に行うのではなく、ライブラリに2枚戻した(か、ライフを支払って手元に残した)後に、手元に残っているカードだけを捨てさせる事が出来る。ライブラリに戻されたカードを追いかけて捨てさせる事はできないのだ。
もう1つ注意したいのは、これが「捨てさせる」効果であると言う事。“偏頭痛(ST)”“マンガラの祝福(MI)”など「手札からカードを捨てる」事にトリガーするカードが幾つかあるが、それを誘発するのだ。その代わり、一度は手札に入るので、ライブラリから直接、墓地に落ちるわけではない。“ゲイアの祝福(WL)”の効果は誘発しないのだ。
さて、ルールに関する問題はこれで片づいたので、このカードを使う意義を考えよう。
1つ目の効果「手札を公開してプレー」については、これだけを目的に使う意義は小さい。そもそも、自分の手札を相手に見せるなど不利な行動である。相手の手札を見たいなら、他に幾らでも手段がある。トーナメントでは、負けが確定しているときに張って相手の手札と数ターンのドローを観察し、サイドボーディングや次のデュエルの参考にすると言う使い方も要求されるが、これは本来の目的でない(同時にこれは自分側の情報、特にズアーの存在を相手に教えることにもなるが、劣勢な側は全力で応戦してるのに対し、優勢な側は余力を残している場合が多いので、得るものはこちらの方が大きいだろう。また、相手のズアーへの熟練度も知ることができる。相手がこちらよりもズアー使い慣れているなら、思い切ってサイドボーディングで交換してしまった方が良いだろう)。
結局、2つ目の効果で相手の手札をコントロールするのが、このカードを使う目的となる。つまり、ライフのアドバンテージをカード・アドバンテージに転換するのだ。同時に相手にもこちらの手札をコントロールされるので、既に優勢な状態でないとこのカードを使用する事はできない。このカードを使って一発逆転する、と言うよりは有利な状況を固定・確定させる為に使われる。
つまり「勝っている時に、勝つために使うカード」と言う事になり、トーナメントデッキを構築する場合、抜く対象となる無駄カードとなりやすいのだ。
また、バーンデッキと対戦する場合、相手デッキのカード効率を落とす効果もある。本来ならクリーチャー除去にも使え、3点以上のダメージを与えるであろう火力カードが、本体にしか打ち込まれない2ダメージのカードに成り下がるのだ。
ここで、このカードの限界・問題をまとめてみよう。
(1)「既に場に出ているパーマネントに影響を及ぼさない」
(2)「既にある手札に影響を及ぼさない」
(3)「ライフアドバンテージを獲得する手段(こちらのライフ獲得と相手のライフ削減)が必要」
(4)「相手にも手札をコントロールされる」
一般的な使われ方はどういうものであろうか? 良く目にするのは、毎ターンライフを2点以上確保できる状態にしておいて、相手のドロー全てを捨てさせると言うコンボである。だが、この様な使い方は、(3)を解決しているだけでファンデッキの域を越えず、このカードを使いこなしているとは言えない。トーナメントデッキに仕上げるには、他の問題も解決しておかないとならない。
実際の話、(1)はこのカードを使う・使わないにかかわらず、対処すべき問題である。場に出ているパーマネントへの対処能力は基本的に備えておくべきものであり、これを問題としないデッキには、残念ながらこのカードは入らない。重要なのは、このカードはこの問題を解決してくれない、と言う認識を持つことである。
(2)こそ、このカード最大の問題点である。(4)の問題を克服できていない場合、このカードを張った瞬間に自分の負けが確定するというケース(相手が致命的なカードを持っているがこちらにはその対策を持っていなかった)が起こる。
これに対しては幾つかの対処法がある。前もって相手の手札を確認する・手札破壊を行って相手の手札をなくす・相手の手札と同数のカウンターを用意しておく・相手の手札を推測しておく、などである。また、少々荒っぽい方法だが、“変化の風”を使って手札を入れ替えると言う方法もある。新しい手札はドローして手に入れるので、都合悪いカードをはじく事ができるのだ。
これらの解決法の内、最初の2つを併せ持ったカードが幾つか存在する(“痛ましい記憶(MI)”“強要(VI,TP)”“苦悶の記憶(WL)”“ロボトミー(TE)”)。こう言ったカードを使った手札破壊/ターン破壊デッキに仕込んで置く、と言うのも良い手である。
実は(4)が解決されてるならこの問題は特に気にする必要はない。本質は相手のまずいカード自体ではない。それに対処できる手札を当分のあいだ手に入れる事ができないのが問題なのである。
(3)は、このカードを最大限に有効活用するのに必要な措置である。相手のカードをなるべく捨てさせ、自分のカードはなるべく捨てさせない。ダメージを与える手段としてクリーチャーや“偏頭痛(ST)”が有効であり、ライフ獲得手段としては“ボトル・ノーム(TE)”“ジェラードの知恵(WL)”が優秀だ。そして、その両方を兼ね備える“生命吸収”は、最も理想的なカードである。
(4)に関して、このカード最大の抜け穴とも言うべき解決策が存在する。そして、この存在によって「勝っている時に勝ちを確定する無駄カード」から「一発逆転を可能とする強力カード」になるのである。
繰り返しになるが、このカードによってコントロールできるのはドローしてきたカードだけである。よって、ドロー以外の手段によって手札になるカードは、このカードではコントロールできない。
トーナメントレベルのカードで、ドロー以外の手段で手札を獲得できるのは、次に挙げるものがある。“ネクロポーテンス”“衝動(VI)”“巻物棚(TE)”"Browse(AL)" この内“衝動”は使い捨てだが、他の3つは恒久的に手札を提供してくれる。これらのカードを用意して置いてから“ズアーの運命支配”を出すと、自分に悪影響を与えずに、相手の手札をコントロールする事ができる。
もう少し実践的に、どういうデッキを組んだらよいか考えてみよう。
まず、典型的な青白のコントロールデッキ。白でパーマネントをコントロールし、青でカウンターすると言う構成のものだ。勝ち手段は巨大飛行クリーチャー・ライブラリアウト・アーティファクトによるダメージ・"Kjeldoran Outpost(AL)"など様々であるが、どれも“巻物棚(TE)”を使ってデッキを回転させ“ジェラードの知恵(WL)”でライフを獲得するようなデッキなので、このカードとの相性は良い。優位を維持する為のカウンターへの依存がかなり減るので、隙をつかれて逆転される心配がなくなる。相手も負けを悟れるので、早々と投了してくれるだろう。
次に、ターン破壊デッキ。“痛ましい記憶(MI)”“苦悶の記憶(WL)”はこのカードとの相性が良く、“時の引き潮(TP)”も除去としての性能が飛躍的にアップする。(3)の問題は“ボトル・ノーム(TE)”+“死体のダンス(TE)”のコンボや“生命吸収”で、(4)の問題は“巻物棚(TE)”で解決するのが良いだろう。
ウイニーの様な速攻デッキに仕込むと言う方法もある。特に遅いコントロール型のデッキと対戦するときにその威力を発揮してくれる。後から引いてくるであろう一発逆転カードを未然に防ぐことができるのだ。(1)(2)(4)の問題を解決できていない様に見えるが、速攻と言う戦術がその必要性を軽減してくれる。(1)の場の問題は、速攻なら間違いなく優位のはずだ。(2)も、場が優勢ならばそれを逆転するカードをまだ引いていない、と言う推測が成り立つ。(4)は、相手のライフを削れているだろう事から、こちらのドローを思うように拒否できない状況にあるだろう。そもそもウイニーデッキの場合均質に作られていることから、特定のカードを落とされて困るという状況は少ないだろう。
もはやスタンダード環境ではないが、「ブロウズ・ディガー」デッキに仕込むのも面白い選択だ。特に赤を混ぜたタイプの場合、“変化の風”と組み合わせることができる。
そして、このカードが最大限の効果を発揮するだろうデッキは、ネクロデッキであろう。“ネクロポーテンス”を張ることを前提としてるので、(4)の問題は解決されている。ネクロを使うデッキでは(3)の問題は解決される様に組むので問題ない。手札破壊を織り交ぜることで(2)の問題も解決できる。特に手札破壊への比重を高めたコントロール型のネクロでは、充分なライフ獲得能力と手札破壊能力から、ネクロを張らずにズアーを張っても勝てる。どんなに不利な状況でも、この2枚のカードを張って相手にエンチャント破壊手段が全くなかったら、そのデュエルはもはや勝ったも同然である。