(1)トーナメントデッキとは何か
マジックのデッキはその指向性から2種類に大別される。「ファンデッキ」と「トーナメントデッキ」である。「ファンデッキ」はデッキの目的がマジックを楽しむことであり、デュエルの勝敗は重視されない。ほとんどが、相手の行動を妨げる事などあまりせずクリーチャーを並べて殴るデッキである。カードが充分でない初心者とかが寄せ集めで作ったデッキもこの範疇に入る。
これに対し「トーナメントデッキ」は大会などに持ち込みデュエルに勝利することを目的に構築されている。当然、相手も「トーナメントデッキ」で対戦してくる。単に自分が勝利条件を満たすだけでなく、同時に相手の行動を妨害する必要がある。これは、相手が勝利条件を満たすことを阻止し、自分の行動を邪魔されないようにすると言う2つの目的がある。言い換えれば、相手をこちらの思惑通りに動かす様に組まれたデッキなのだ。
(2)5つの基本戦術
マジックにおいて取りうる戦術は以下の5つが基本である。いずれのデッキも、これらを単独、または組み合わせて構成される。ダメージ手段としての「バーン」と「クリーチャ−」、相手の行動を制限する「マナ拘束」と「パーミッション」「手札破壊」。特に後ろの三つは、単独では勝利条件を満たせないので勝つために前2つのどちらかと組合わさることも多い。
これらには、5つの基本デッキ「FBD(=Five Basic Decks")」と言う呼び名が与えられている。
(3) FBDその1:バーンデッキ
マジックを始めた人間が初心者を脱しようとする頃に1度はかかると言われている病気に「バーンデッキを最強と思う錯覚」がある。制限環境さながらのクリーチャー戦によるデュエルしか知らない場合、火力呪文の確実性と即時性は鮮烈に映る。ほとんどコモンのみで構築できるのもそれに拍車をかける。だが、大きな大会で純粋な赤単バーンデッキが上位入賞したという話は寡聞にして聞かない。
(3−1)基本理念
相手にダメージを与える手段は2種類ある。1つは、クリーチャーなどパーマネントで与えるもの。これは、ダメージを与えるには一定の条件を満たす必要がある上、パーマネントであるので除去される可能性も高い。クリーチャーなどは召還酔いがあるので次のターン以降にならないとダメージが入らない。また、ダメージの量は非常に小さい。
これに対し、ソーサリーやインスタントでダメージを与える方法もある。この場合、使ったら即座に、かつ確実にダメージが入り、その値も大きい。そう言うカードでダメージを与えて勝つ方法を「バーン」と言う。ダメージを与えるカードは赤に多く、その内容に燃やすものが多い事から、燃えるという意味の「バーン」と呼ばれている。
バーンデッキのメリットは手札とマナを確実にダメージに変えられる事にある。防ぐにはカウンターするか、ダメージを軽減したり移し替えたりするしかない。使用してからダメージが入るまでの時間差がないのも特徴だ。クリーチャーの場合はダメージを与えるまでに時間と手間が非常にかかる。確実性と即時性がバーンの強さだ。相手が行動する前に速やかに勝利をもぎ取ることができる。
直接のダメージ呪文以外にも、"Aeolipile(FE)"や“モグの狂信者(TE)”の様な生け贄に捧げるとダメージを与えられるパーマネントや“ボール・ライトニング”や“スクアタの槍騎兵(VI)”の様な召還酔いに影響されないクリーチャーも使用する。これらのカードもダメージ呪文と同じ様な働きをする。
火力呪文の大半はプレーヤーだけでなくクリーチャーにもダメージを与える事ができる。バーンデッキはクリーチャーの除去能力が非常に高い理由がそこにある。脅威となるクリーチャーを容易に除去できる。特に“地震”の様な広範囲のクリーチャーにダメージの入るカードはカード効率も高く強力である。もっとも、本来は対戦相手のライフを削るのが目的なので、クリーチャー除去のみにカードを使っていてはデュエルに勝利できなくなる。
それと、これはデッキ構築の理論を離れた経済的な問題なのだが、多くの火力呪文はコモンだと言う事。バーンデッキの構築は非常に安価ですむ。FBDの中では最も安いであろう。また、バーンデッキは、ありったけのインスタント火力呪文をデッキに詰め込むという単純なデッキ構築をして、引いた火力呪文を端から相手に叩き込むという単調なプレイングをしていてもそれなりの成果を上げることができる。この手軽さがバーンデッキの愛用者が多い最大の要因であろう。
(3−2)弱点
今度はこのデッキのデメリットを見てみよう。
まず、ダメージの色が赤に依存している点が大きな弱点になる。他の色にもダメージを与える呪文がないわけではないが、対コスト効果が非常に悪い上に数が少ない。この問題を突いた最強のバーン対策カードが“赤の防御円”であり、赤単独ではエンチャントを破壊できない。
対カード効果が低いのも問題だ。パーマネントのダメージソースは、確実性がない代わりにダメージを与え続けることも可能で、場合によっては1枚のカードで20点のライフ全てを削ることもある。が、ダメージ呪文は使い切りなのでその場で与える数点のダメージのみである。“火葬”や“ショック(ST)”の様なコストが安く対コスト効果の高いカードだけを集めれば、速攻で20点のライフを削りきれるように思えるが、実際は途中で手札の方が足りなくなる。1枚当たり4点以上のダメージを与えられないと厳しいのだが、4点以上のダメージが入るカードの場合、今度は対コスト効果が悪くなる。
バーンデッキの強さは対コスト効果と対カード効果の微妙なバランスの上に依存していると言える。だから、そこを突く戦術に弱い。ランドを破壊されたり、マナを拘束されたり、手札を破壊されたりしたら駄目である。
また、ライフ回復手段にも弱い。これは、ダメージを与えるデッキ全般に言えることだが、対カード効果の問題を抱えるバーンデッキではかなり深刻である。特に“ジェラードの知恵(WL)”や"Zuran Orb(IA)"の様な大量のライフを獲得できるカードは、バーンデッキに致命的な打撃を与える。
(3−3)他のFDBとの関係
・有効な相手:クリーチャー
・苦手な相手:マナ拘束、カウンター、手札破壊
・組み合わせると良い相手:カウンター、クリーチャー
クリーチャーは焼ける、と言うのがクリーチャーデッキに対して優位に立てる理由。プロテクション:赤やアンタッチャブルなどの焼けないクリーチャーを中心に組み立てたクリーチャーデッキでは逆に分が悪くなる。
リソースを奪われるマナ拘束や手札破壊に弱いのは前にも述べた。カウンターデッキの場合、全マナをつぎ込んだX点火力など、1ターンの行動全てに相当するものを1枚のカウンターで無効化されてしまうので苦手な方に含めている。サイドボード後に“赤の防御円”などの致命的なカードをカウンターで守られると絶対に勝ち目がなくなるだろう。“ボガーダンの槌(MI)”も“雲散霧消(MI)”されてしまっては無意味だ。
数多い致命的なカードを的確に対処できるカウンターとの組み合わせは伝統的な上級トーナメントデッキだ。また、クリーチャーを加えてダメージ能力と速度を増強した「ステロイド」「スライ」「ウイニーバーン」などは鋭角的な強さ(と脆さ)をもっている。
(4) FBDその2:マナ拘束デッキ
ピッチスペルと呼ばれる一部のカードや土地を除いて、ほとんどのカードは使うときにマナを必要とする。土地以外にもマナを供給する手段はあるものの、それらのカードですら、場に出すときにマナを必要とする。
マナはマジックにおいて最も重要なリソースであり、その基本的な供給手段である土地は、1ターンに1枚しかプレイできないという制限を与えられている。
(4−1)基本理念
相手にマナを与えない。どんなに強力なカードでもマナさえなければ只の紙になる。
必要な量の土地を引けずに負けるという経験は誰でもあるだろう。単に土地がないという事実はそれだけでデュエルの負けに直結する。ならば、相手の土地をなくしてやれば、自動的に勝ちが転がり込んでくるだろう。これがマナ拘束デッキのコンセプトである。
必ずしも全ての土地をなくす必要はない。相手が使えるマナをこちらが使えるマナより少なくすればよいのだ。4マナで呼べるクリーチャーと2マナで呼べるクリーチャーでは、4マナで呼べるクリーチャーの方が圧倒的に強い。使えるマナの差は使えるカードの強さを決定する。
また、土地を除去する必要すらない。アンタップを妨げてやればその土地はないのも同然となる。何故ならマナを生成できないのだから。ただ、アンタップを妨げるカードは相手のみならず自分にも影響を及ぼすので、何らかの工夫が必要だ。
土地を除去する手段は幾つかある。1番直接的なのが、土地を破壊するカードだ。黒には“押し寄せる砂(MI)”“涙の雨(TE)”、赤には“石の雨”“焼けこげた土地(TE)”、緑には“忍び寄るカビ(VI)”“冬の抱擁(TE)”と言ったソーサリーがある。また、“ドワーフ鉱夫(MI)”“軍隊蟻(VI)”や“オークの移住者(WL)”と言ったクリーチャーは土地破壊をする能力を持つ。“不毛の大地(TE)”は土地破壊能力を持った土地である。火力を持つ赤を中心に有効色である黒や緑と組んだランド破壊デッキは古くからある基本的なデッキである。
白には、場にある全ての土地を破壊する“ハルマゲドン”がある。これはちょっと特殊な例で、優位を確保してから、それを保つために使用される。土地は1ターンに1枚しかプレイできない。例えばそれまで5マナまで使えたとすると、同じ条件になるまで、最低でも5ターン必要とする。それに、そう都合良く何枚も土地が手にはいるわけでもない。確保した優位でゲームの決着するまでの時間を稼ぐことは可能であろう。
青は伝統的に土地除去能力が乏しかった。が、テンペストブロックでパーマネントを手札に戻す能力が強化された。これは、土地にも行使できる。1ターンに1枚戻せるなら、相手の土地はこれ以上増えない。また、1ターンに複数枚戻せるようになると、相手の土地はどんどん目減りし、最終的には土地が全くなくなってしまう。「マナ・オーバーロード」と呼ばれるこの戦術は「土地をプレイできるのが1ターンに1枚」という制限を最大限に活用した新しいマナ拘束手段である。
除去ではなくアンタップを制限する方法には、“冬の宝珠”を使った「プリズン」と“停滞”を使った「ターボ・ステイシス(スカンダリー・ステイシス)」の2つがある。
「プリズン」の場合、土地のアンタップのみを制限する。アーティファクトやクリーチャーなど他のパーマネントは通常通りアンタップする。
自分が影響を逃れる方法としては、以下のものがある。1つ目はアーティファクトやクリーチャーにマナを求めるというもの。2つ目は、相手のターンエンドに“冬の宝珠”をタップしたり手札に戻したりして無効化し、自分だけアンタップするというもの。3つ目は土地を手札に戻して再びプレイして使う方法。具体的には“知られざる楽園(VI)”“クィーリオン・レンジャー(VI)”を使う。4つ目は、デッキをコストの安いカードだけで構成して少ない土地でも動くようにする事。
“冬の宝珠”が制限しないクリーチャーとアーティファクトに対しては、次のような対策が有効だ。1つ目は維持と運用にマナを必要とさせること。“プロパガンダ(TE)”や“ペンドレルの霧(WL)”はクリーチャーをほとんど無力化する。それは自分にも言えることで、“魔力流出”は“冬の宝珠”を壊してしまう危険なカードとなる。2つ目は手札に戻すこと。マナが拘束されているので、再び場に出すのには数ターンを必要とする。アーティファクト・マナソースに対する“ハーキルの送還術”は非常に効果的である。
「ターボ・ステイシス」とは、“停滞”の持つ強力な効果(アンタップフェーズをなくす)に防御を完全に委ね、“停滞”の維持とそれを続けることによって相手をライブラリアウトに追い込むと言うものである。勝利条件を満たす為に使うカードはたった1枚の“フェルドンの杖”だけである。
毎ターンに必要となる“停滞”のアップキープコストを賄うために、デッキ中の土地比率を50%近くまで高める。そうすれば、“吠えたける鉱山”を使用して1ターンに2枚以上のカードを引けるようにすることで、期待値として毎ターン1枚の土地を引ける様になる。従来の“停滞”デッキは、カード複数の組み合せでアップキープコストを賄うため、“停滞”を使えるようになるまでかなりの時間を必要とし、トーナメントデッキには不向きであった。が「ターボ・ステイシス」では、追加ドロー手段がでているのなら、デュエルが始まって数ターンの内に“停滞”を張る事ができる。
“停滞”デッキには、定番とも言うべき“宿命”とのコンビネーションは欠かせないであろう。単独で使用するなら多少の時間を稼ぐにすぎない“宿命”も“停滞”の効果下であれば相手の行動を完全に拘束する。全てのパーマネントはタップ状態で場に出て、1度たりともアンタップすることはない。
ただ、コストにタップを含まない能力は止めることができない。そういったものはマナが必要だったり、勝利条件に直接関係なかったりしたので軽視されていたが、“クィーリオン・レンジャー(VI)”の持つ「森を手札に戻してクリーチャーをアンタップする」という能力はこのデッキに致命的な打撃を与えた。これに対策したものが、“資源の浪費(VI)”でマナを確保し“平衡(VI)”でクリーチャーと土地をフェーズアウトさせて除去できる「スカンダリー・ステイシス」である。これは、土地の量を若干減らして“資源の浪費”に置き換え、“宿命”を“平衡”に変えただけの「ターボ・ステイシス」である。
(4−2)弱点
まず、全てのマナ拘束デッキに共通して言えることが、1〜2マナというような少ないマナで機能するように設計されたデッキに弱いと言うこと。同様に、マナ拘束が十分にできないうち攻めてくる速攻デッキにも弱い。
ランド破壊・ハルマゲドン・プリズンなどの土地のみを拘束するデッキの場合、土地以外のマナソースが非常に邪魔になる。クリーチャーとアーティファクトの2系統があり、両方にバランス良く対策するのはなかなか難しい。
また、マナ以外のものでコストを支払うことのできるピッチスペルも大敵だ。特にダメージ能力である“火炎破(VI)”やクリーチャー除去になる"Contagion(AL)"やカウンター呪文である"Force of Will(AL)"は非常に厳しい。
また、ランド破壊カードは1対1の除去でありカード効率が高くない事もネックになる。普通のデッキには16〜24枚入っており、同量のランド破壊カードを入れたらそれ以外のことをする余力がなくなってしまう。
ランド破壊以外のマナ拘束手段は、カード効率を高める代償として少量のキーカードに依存するようになっている。それを的確にカウンターされたり除去されたりしたら拘束が解けてしまう。ランド破壊以外のマナ拘束が自然とカウンターを組み込むのはその為である。
(4−3)他のFDBとの関係
・有効な相手:バーン、クリーチャー
・苦手な相手:カウンター
・組み合わせると良い相手:カウンター(「プリズン」など)、クリーチャー(「ハルマゲドン)
マナ拘束のためのカードをカウンターされてしまうとどうにもならない。カウンターマナである青マナ2つが揃う前に動くか、相手に隙を作らせるしかない。
クリーチャーの高速出現は、一時的に優位を得るには良い手段だ。これを“ハルマゲドン”で固定する「アーニーゲドン」とその発展型「X―ゲドン」は典型的な上級トーナメントデッキであろう。
(5) FBDその3:パーミッションデッキ
精巧に組み上げられた作戦も、その一角が欠ければ崩壊してしまう。相手の行動の内、−本当に都合の悪い一部を止めさせられるなら、負けることはないだろう。
“対抗呪文”をはじめとするカウンター呪文はそれを可能にするカードである。
カウンター呪文を多量に使用したデッキのことを「パーミッション」と呼ぶ。これは、対戦相手がこのデッキの使い手に行動の許可(パーミット)をもらうかの様に伺いを立てる事から名付けられた。パーミッションデッキの使い手はゲームにおいて起きて良い事と悪い事を決定する。
(5−1)基本理念
基本的に、相手の行動は自分にとって都合の悪いものである。一見すると都合が良いように見える場合もあるが、後から出てくるカードによってそれが覆される。特に重大なものはゲームの敗北に直結する。
裏を返して、相手が行動をしないなら、自分が勝利できる。実際はそう言う訳に行かないが、相手の呪文を打ち消したなら、事実上相手は何もしなかったことになる。
カウンター呪文を大量に使用することにより、相手の行動を自分の都合の良いようにコントロールすることができる。これがパーミッションデッキである。カウンターに成功し続ければ、相手は有効なことを全くできずに負けていくだろう。
こちらのデッキがパーミッションであること自体が、相手の行動を制限する。マナの手札が充分にあってカウンターされる可能性がある場合、相手はむやみに行動できない。本来なら1枚でゲームを決着できるほどのカードでも、何枚かをおとりに使って相手のリソースを浪費させないと、使用できない。また、そのタイミングが来るまでそう言った強力なカード群を温存せざるをえない。
カウンターにはもう1つ利点がある。それは、カウンターされた呪文に使われたコストが全くの無駄になることだ。最低でも手札1枚といくらかのマナ、呪文によっては数点のライフや幾つかのパーマネントをコストとして支払うものもある。これらのコストが全て無駄になるのだ。
また、対処手段としてみた場合、カウンターほど万能性を有するものは他にない。一部の例外を除いて、ほぼ全てのカードに対処できる。クリーチャー・アーティファクト・エンチャントの3種のパーマネントには、それぞれの種類別に除去カードが存在するが、種類間の融通が利かないか、利くものはコストがべらぼうに高い。特にクリーチャー除去など、除去できるかが相手のタフネスに依存したり、プロテクションやアンタッチャブルなどで対象にとれない場合があったりと、除去の確実性が薄い。これらのパーマネントのうち一部のものは、インスタント速度で除去しようとするとレスポンスして使用されてしまうので、対処したことにならない。ソーサリー・インスタント・インターラプトなどはカウンターでないと完全に対処できない。
(5−2)弱点
カウンター呪文は1体1の除去となるのでカード効率が高くない。その為、勝利手段などの他の部分にしわ寄せが来る。なるべくカード効率の良い除去呪文や勝利手段を用意しないとならない。もしくは、高効率のカード・アドバンテージ獲得手段かデッキ圧縮手段が必要だろう。
ダメージ手段は特に難しい。カウンターする事がダメージ手段に直結するカードがないからだ。他のFBDの場合、クリーチャーやバーンは言うに及ばず、手札破壊には“偏頭痛(ST)”“持たざる者の檻(MI)”などのカードが、マナ拘束には“ミシュラのアンク”や“不明の卵”また手札がたまることを利用した“突然の衝撃(TE)”“持てる者の檻(MI)”が有効なダメージ手段になるのに対し、カウンターには有効なダメージ手段がない。青の巨大飛行クリーチャーで殴るかライブラリ破壊を行うかしかないのだ。
また、カウンターを行うには充分な量のリソースが必要となる。具体的には手札とマナだ。これらを奪う呪文は確実にカウンターしないとならない。特に“ハルマゲドン”や“悪疫”は通してしまうと敗北に直結する。手札破壊は通してもカウンター呪文を失う可能性があるだけにカウンターした方が良いのだが、これ以上にカウンターすべき呪文もあるだけに判断が難しい。
常にカウンターができるようにマナを残さないとならないだけに、デッキの展開が遅くなる。青マナ2つはカウンターに必要な最低限のマナ数である。これを残しつつデュエルするなら、カウンター以外の行動ができるようになるのは3マナ以上確保できるようになってからだ。トーナメントデッキは速度を武器に攻めるものが多いだけに、これは致命的な欠点になりかねない。
万能のカウンターでも起きてしまったことまでは変えられない。カウンターできなかったものに対する対処能力が欠如しているのも弱点の1つであろう。カウンター能力を与えてくれる青には、パーマネント除去能力が乏しいのもこの問題に拍車をかける。
この欠点は速度のあるデッキと対戦する時に大きく現れる。序盤に出された数体のクリーチャー以外は全てカウンターしたにもかかわらず、それらのクリーチャーに殴られ続けて負けたという事が往々にして起きる。「パーマネントを手札に戻すカードと組み合わせる」と言う方法が良く言われているが、それはあくまで論理的な可能性に過ぎない。手札に戻すカードとカウンターするカードの2枚コンボであり、これで対処できる相手のカードはたかが1枚である。ただでさえ悪いカード効率がさらに悪くなる。
除去能力の問題は、土地と一部のカウンターできないカードにも波及する。特にカウンターできない上にプロテクション青を持つ“スクラーグノス(TE)”は青単デッキにとっては悪夢のようなカードである。また、絶大的なカード・アドバンテージを実現する"Kjeldoran Outpost(AL)""Thawing Glaciers(AL)"や"Library of Alexandria(AN)"などは、絶対に相手に使わせたくないカードである。今では“不毛な大地(TE)”という優秀な除去カードが出ているので、忘れずに用意しておくべきである。
かなり弱点が多いものの、他の色でそれを補えばかなり有力なデッキになる。クリーチャー除去とカード・アドバンテージを与えてくれる“神の怒り”にエンチャント・アーティファクトの両方に対処できる“解呪”を持つ白はベストパートナーであろう。絶版となったが“剣を鍬に”や“セラ・エンジェル”も有効なカードだ。
(5−3)他のFDBとの関係
・有効な相手:バーン、マナ拘束
・苦手な相手:手札破壊、クリーチャー
・組み合わせると良い相手:バーン、手札破壊
カウンターデッキが有効か苦手かの判断は、カウンターしなければならないカード量で決定する。キーカードさえ防げばよいマナ拘束などは楽な相手だ。
逆に、手札を執拗に攻撃してくる手札破壊は非常に苦手な相手だ。基本的に手札破壊呪文はカウンターしなければならないだろう。でなければカウンターを、もしくはそれ以上に重要なカードを抜かれる。だが、カウンターした所で手札が減ることには変わりないので、相手は目的を半ば達成しているとも言えるのだ。
どのカードをカウンターしても大差ないようなデッキも、カウンターの特性を活かせずに終わる。その様な均一なデッキは速度で攻めてくるものなので、カウンターデッキの遅さとパーマネント対処能力の欠如が相性をさらに悪くする。テンペストでウイニー対策に“プロパガンダ(TE)”が登場したのは朗報だろう。
カウンターしなければならないカードを減らすことのできる手札破壊は、カウンターと相性がよい。カウンターの青と手札破壊の黒は有効色であり、この組み合わせは以外とパーマネント対処能力が高い。また、バーンの持つクリーチャー除去能力とダメージ能力はカウンターの欠点を補う。カウンターもまたバーンの欠点を補うので相互補完をして良いデッキになる。
(6) FBDその4:手札破壊デッキ
手札の数、それは選択できる行動の数である。マナを拘束しても、安いコストで−中にはコストを全く必要とせずに−使用できるカードを妨げることはできないが、使うべきカード自身がなければ何もできない。
手札は両者に等しく与えられる。ゲーム開始時の手札は7枚で、それ以降は基本的に1ターンに1枚しか供給されない。最初のターンにはハンディとして手札の供給がないのは、それだけ1枚1枚の手札が重要であることを表している。
(6−1)基本理念
相手に使うべき手札がなければ、どんなに大量のマナを確保できようと、何もできない。カードには使うべきタイミングというものがあり、最大の効果を発揮するタイミングまで保持できなければ、そのカードの脅威はかなり薄れる。
優秀な手札破壊呪文は、相手の行動妨害と同時にカード・アドバンテージを獲得する。トーナメントデッキで使われる手札破壊のうち、パーマネントのものは毎ターン手札を奪い、ソーサリーは1枚で相手の手札を2枚も奪うだろう。強力な手札破壊デッキというのは、どちらかというと、リソースの差で勝つものだ。“拷問台(絶版)”“持たざる者の檻(MI)”などでダメージを与える為に手段として手札破壊をするのではなく、リソースの差につながる手札破壊が目的としてデッキが組まれているのだ。
手札破壊には、破壊する手札の決定方法で3つに分けられる。1つ目は、“強要(TE)”の様に相手の手札を見て決めるもの。2つ目は、"Hymn to Tourach(FE)"の様にランダムで決めるもの。3つ目は“深淵の死霊”の様に、持ち主が決めるもの。
1つ目のものが1番効果が高く、3つ目のものが効果が悪いのは自明であろう。特に相手の手札を見て決める場合は、最も損害の大きいカードを捨てさせることができるだけでなく、相手の手札に関する情報、ひいては相手のデッキ内容に関する情報まで入手できるのだから。で、1度に複数の手札破壊が行える場合、どの順番で行うのが効率よいかは知っておいて損はない。
手札破壊を受けるプレーヤーが4枚の手札を持っていると仮定しよう。手札の4枚には1から4の番号がついているものとする。この番号は捨てられたときの損害の大きさを表している。捨てさせる側はなるべく大きい番号のカードを捨てさせたくて、捨てる側は逆に小さい番号のカードで済ましたい。
まず、「見て決める」のと「ランダム」の2つの場合。「見て決める」のが先の時は、「見て決める」で4と「ランダム」の期待値2で合計は6。「ランダム」が先の場合は、「ランダム」で期待値2.5と「見て決める」期待値3.75で合計は6.25。わずかながら、先に「ランダム」を使った方が効果が高い。最大の効果である4と3の組み合わせも、1/2の確率で起きる(1〜4は各々1/4の確率だが、4を捨てたときは3を、3を捨てたときは4を捨てれば良い。1/4*2=1/2。ちなみに「見て決める」が先の場合、4が固定で、1〜3が捨てられる確率が1/3づつ。故に1/3である)。
次に「ランダム」と「相手が決める」場合。「ランダム」が先だと、「ランダム」で期待値2.5と「相手が決める」の期待値1.25で合計3.75。「相手が決める」が先になると、「相手が決める」で1と「ランダム」の期待値3で合計4。最大効率である4が捨てられる確率も1/3ある(「ランダム」が先なら1/4)。“呆然(MI)”は効率の悪い順番なのだ。
「相手が決める」と「見て決める」の場合、どの順番でも捨てられるカードは1と4で変わらない。が、それでも順番が決定する。先に「相手が決める」方が良いのだ。相手はデッキの持ち主なのだから、どんな動きをするデッキなのか、デッキにどのカードが何枚入っているのか、などデッキに関する情報を多く持っている。また、場合によってはライブラリを操作した後で次に来るカードを知っている。しかし、対戦相手となった方はそんな情報は少ない。1番損害が大きいであろうと選んだカードが、実は1番損害の小さいものであった、という可能性もある。実際の損害度合いがわからないと言う意味で「見て決める」も「ランダム」に近いものがあると言っても良いだろう。
これらの関係を一般化して、「効果の低いものから使っていけば効果が高くなる」と言えるだろう。
また、破壊した手札をどうするかでも2種類に分類できる。1つは“呆然”の様に墓地に捨てるもの(“ロボトミー(TE)”の様にゲームから取り除くものも含む)。もう1つは“苦悶の記憶(WL)”の様にライブラリの上に戻すもの。どちらも手札が減るのは変わりない。捨てるものは除去の側面を持つのに対し、戻すものは、本来なら引くカードのかわりになり以後もずれていくと言う点で、ドローを破壊しており、ターン・アドバンテージを稼いでいる。どちらが優れているとは一概には言えない。ただ、ライブラリに戻すものやゲームから取り除くものは、捨てさせる事によって発動する対手札破壊カードの影響を受けない点をメリットとして考えることができる。
(6−2)弱点
実のところ、手札破壊と言う戦術自体は以外と弱点の少ないものである。
手札破壊に直接的な脅威を与えらるのは、手札破壊戦術に対抗するべく設計されたカードだけである。"Guerrilla Tactics(AL)"“マンガラの祝福(MI)”“砂のゴーレム(MI)”"Psychic Purge(LG)"の4種類しかない。だが、これらのカードも完璧ではない。墓地に捨てる場合にのみ効果を発揮し、しかも捨てさせる効果の支配者が対戦相手である時だけである。
また、手札破壊をするまでもなく手札がなくなるようなデッキは手札破壊の効果薄いので、結果的に苦手な相手になるだろう。具体的には、ウイニーやバーンである。
ただ、手札破壊呪文のほぼ全てが黒いカードである事が、黒の持つ弱点を全て抱え込む。これが最大の弱点であろう。エンチャント破壊能力のない黒は“生の躍動”なぞ出された日には何もできなくなるであろう。
(6−3)他のFDBとの関係
・有効な相手:バーン、カウンター
・苦手な相手:クリーチャー
・組み合わせると良い相手:マナ拘束(土地破壊)、カウンター
手札が重要なデッキには効果が高いが、手札をすぐに使ってしまうような相手には弱い。ウイニーなどは、手札がすぐにクリーチャーに変わってしまい、対処に困る。
「余分な土地を保持しておいて捨てる」という手札破壊対策を無効にできる土地破壊は有効な組み合わせだ。相手のリソースを壊滅状態にできるだろう。“破裂の王しゃく”と“ハルマゲドン”でこれを行う「赤白パーミッション」などは、リソース獲得の王者である「カウンターポスト」に対しリソース差で勝てる希有なデッキだ(その分、プレイングが難しいのも事実)。普通「カウンターポスト」に勝つには、リソース差をつけられる前に速度で圧倒するしかないのだ。
(7) FBDその5:クリーチャー高速出現デッキ
相手より早く、大きいクリーチャーを出す。そうすれば、相手の準備が整う前に殴り倒すことが可能であろう。少なくとも、相手はそのクリーチャーに対処しないとならない。相手を防戦に追い込み、本来なら別の目的に使用するであろうリソースを浪費させることができる。
スタンダード環境ですら、基本セットと4〜6のエキスパンションから成り立つ。1500種類以上のカードの中から軽くて効率の良いクリーチャーを集めれば、どの色でもウイニーデッキなどは実現可能であろう。レアリティの低いカードで構成でき、プレイング技術もさほど難しいものを要求されないウイニーデッキは、バーンデッキと並んで、トーナメントでも人気のある手頃なデッキである。
(7−1)基本理念
マナの乏しい序盤の内に、相手の処理能力を上回る量または質のクリーチャーを展開して場を支配し、そのまま手早く相手のライフを削りきる。これが、クリーチャー高速出現の戦術である。先手を打つ事で相手を防戦に追い込み、次々とクリーチャーを出して相手を圧倒する。ライフを削ることを第一目標とし、カードその他リソースのアドバンテージは重要視しない。クリーチャーだけで相手に勝とうとするのなら、速度を武器にするほかはない。
クリーチャーの高速出現を実現するには、幾つかの方法がある。
1〜2マナで召還できる小型クリーチャーを大量に使用する「ウイニー」はクリーチャー高速出現の代表的なデッキだ。デッキが確実にまわるように単色で作られることから、使う色を付けて「白ウイニー」とか「黒ウイニー」などと呼ぶ。
デッキがまわる最低量の土地を入れたなら、残りのほぼ全てを低コストのクリーチャーにし、ほんの少しだけ他のカードを入れる。ある程度シャッフルしたなら、どの部分の7枚を取っても、数体のクリーチャーとそれを展開するのに充分な土地があるだろう。均一なデッキ内容からくる安定性もこのデッキの強みである。
クリーチャーの選択は、コストが安いことは当然だが、飛行やシャドーなどの強力な回避能力や、プロテクションのような除去に対する耐性も重要である。また、コストに対するパワー・タフネスの効率よさも重要であり、それを高めるグローバル・エンチャントである“十字軍”や“不吉の月”などは、ウイニーに適した補助カードである。
量による制圧はウイニーでのみ実現するが、質による制圧を可能にする手段は幾つもある。
まずは、クリーチャーをエンチャントやインスタント等で強化する方法。昔は、低コストだが強力な回避能力を持ったクリーチャーに、コストに比して高いパワー修正を与えるカードを使用して実現した。が、強化されたクリーチャーを除去されるとカード・カードアドバンテージを失う点の、クリーチャーと強化カードをいう2種類のカードに依存したコンボである事がネックとなり広まらなかった。しかし、コストに比して高い修正を与える(3マナで+5/+5程度の修正を与える)“浄化の鎧(WL)”が、この戦術に再び脚光を浴びせた。白ウイニーに“浄化の鎧”が組み込まれているのは良くあるデッキである。
次にリアニメイト。巨大なクリーチャーを何らかの手段で墓地に送り込み、“動く死体”“ネクロマンシー(VI)”“死体のダンス(TE)”と言ったカードを使って墓地から場に移すというもの。成功したときの効果は非常に高いが、クリーチャーと復活カードの2種類のカードによるコンボである上、クリーチャーを墓地に入れるのにも手間がかかる。最近では“生き埋め(WL)”の登場で墓地にクリーチャーを送るのは簡単になった。また、除去も兼ねる“生ける屍(TE)”も、リアニメイトを強化する。単に使用済みカードの置き場である墓地をリソースとして利用するのがこの戦術の特徴である。
マナを生成する呪文を多用して序盤に大量のマナを得て、それで本来は呼べないようなクリーチャーを召還する方法もある。大量マナと言っても4〜5が限界であり、この当たりでコストに比して強大なクリーチャーがいなくなってしまったので、スタンダードではあまり有効でない。逆に、制限カードとなった強力なマナ生成カードを多く持つクラシックでは、そう言った0マナアーティファクトから強力なジンやらイフリートやらが召還される。
(7−2)弱点
クリーチャー高速出現デッキ最大の弱点は、クリーチャーが除去されやすいパーマネントであること。クリーチャーの少ないデッキは珍しいことから、どんなトーナメントデッキでもクリーチャー対策にある程度の枚数を割いている。
また、バーンデッキの項で述べた事と重複するが、ダメージで勝つのだから有効にライフを減らせられないとまずい。各色の防御円や“不死身(TE)”などでダメージを軽減されてしまうと全く意味がない。また、“ジェラードの知恵(WL)”の様な高効率のライフ回復手段も、時間を稼がれてしまうのできつい。
ウイニーはその性質から何体もクリーチャーを並べないとならない。これでは“神の怒り”や“地震”と言った全体破壊カード餌食となってしまう。また“プロパガンダ(TE)”や“ペンドレルの霧(WL)”の様な、クリーチャーの運用に負荷をかけるカードを出されると、動きが鈍くなってしまう。最大の武器であるスピードを失ってしまったら、もはや勝ち目がない。
ウイニー以外の方法は、1体の高性能クリーチャーを手早く出すために何枚かのカードを使う。これを1枚のカードで対処されてしまえば、アドバンテージを大きく失う。1〜2回やられれば、その次のクリーチャーを出すだけのリソースはもはや残らない。
(3−3)他のFDBとの関係
・有効な相手:マナ拘束、カウンター
・苦手な相手:バーン
・組み合わせると良い相手:バーン、マナ拘束(土地破壊、ハルマゲドンなど)
速度で圧倒するのだから、動きの遅いデッキには強い。が、豊富なクリーチャー除去能力を持つ上、クリーチャーで場を支配してもダメージを与えてくるバーンには弱い。
ダメージ能力と速度を飛躍的に上昇させるバーンとの組み合わせは強いが脆い。また、速度で差を付けるのだから、マナを拘束して相手の行動を遅延させれば、その優位が長く保てる。