マジック関連の書籍や雑誌などでは当たり前のように使われる言葉である「メタゲーム」。だが、その意味をちゃんと理解している人は意外と少なく、これを実行している人はさらに少ない。だが、トーナメントで上位に入るプレーヤーは、必ずと言って良い程、メタゲームを行っている。入賞できるプレーヤーとそうでない者の差もメタゲームにあると言って過言ではない。
(1)メタゲームとは
この言葉は、マジックの創作者である偉大なる数学者、リチャード・ガーフィールド博士が命名したものである。単にデュエルをして勝つと言うレベルを超えた所に存在する勝負のことで、情報を収集して流行を読み取り、大会で多くのプレーヤーが使うデッキを予測し、それらに勝ちうるデッキを構築することでトーナメントを有利に闘うという発想・技術を指す。
デッキには相性がある。クリーチャーデッキはバーンデッキに弱く、バーンデッキはランド破壊デッキに負け、ランド破壊デッキはウイニーが苦手だ。詳しい事は別の文章で述べているのでそちらを参照して欲しい。で、相性の良いデッキで闘えば勝てる可能性は高くなる。
また、マジックの多彩性はどんなデッキに対しても、その欠陥や弱点を突いたいやらしいデッキを用意することが可能にしている。例え世界選手権を制したデッキでも「そのデッキを倒す事」を目的に構築されたデッキの前には為す術もなく敗北するだろう。
大雑把な例だが、トーナメント参加者の4割のプレーヤーがAと言うデッキを使い、3割のプレーヤーがBと言うデッキを使い、2割のプレーヤーがCと言うデッキを使っていたとしよう。ここで、ABCの3つのデッキに勝てるデッキを構築して参加したなら、大会参加者の9割に勝てる計算になるのだ。
「机上の空論だ」との反論があるかもしれない。だが、‘97のアジア・太平洋選手権の日本代表選考会と同年の世界選手権の日本代表を決める日本選手権において、代表となった上位4人は全てカウンターポストを使っていた。上位60人程で争う決勝ラウンドなど、ほとんどのプレーヤーがカウンターポストかカウンターポストの対策デッキかのどちらかであった。同様に、’97のファイナルでは、上位8人中4人が5CGであり、かつ優勝・準優勝の両者もやはり使っていた。強くて使いやすいデッキは自然と使用者が多くなるものなのだ。
メタゲームに必要なのは、純粋なデュエルの技術ではない。情報を収集する手段であり、それを正確に分析する頭脳であり、そしてトーナメントの大勢を占めると推測した数種類のデッキに勝ちうるデッキを構築する能力である。
こうして構築されたデッキは、あるいは致命的な欠陥を持っているかも知れない。土地破壊に弱いとか、白いデッキに勝てないとか。だが、求められているのは隙のない完璧なデッキではない。トーナメントに出てこないと推測したデッキに勝てなくても全く構わないのだ(そのデッキが出ないと推測するのは難しい問題だが)。そう言うデッキを使うプレーヤーは、何も考えていない弱いプレーヤーなのでデッキの相性が悪くてもプレイング技術の差で勝てるものだ(もう1つのパターンとして、自分を上回るメタゲームを行った上級プレーヤーが結論として選んだ場合というものがある。この場合はメタゲームに負けたという事なのだ)。メタゲームとは、そう言うものである。
(3)情報の収集・分析
メタゲームを行うのに欠かせない、最も基本となるものが情報である。効率よく、かつ有効な情報をいかにして集めるか、そこが重要である。
1番良いのは直接トーナメントに行くことだ。都市部であれば毎週どこかで大会がある。大きなデュエルスペースなら定期的に行われている。実際に参加しても構わないし、参加者となると他人のデュエルを観戦できないので参加しなくてもよい。本物のトーナメントなのだから生の情報が手にはいるだろう。定期的に開催される大会なら、その時に得た情報は次の回で大いに役立つだろう。上位に入賞したデッキは特に注意が必要だ。成功したデッキは模倣者を生む。次以降の大会で増えることは間違いない。ただ、忘れてはならないのは、他のプレーヤーも同様に、メタゲームしてくると言うことだ。
でも、そう都合よく大会に行けるわけでもない。世界レベルの大会などは参加するのが難しい。また、地方ではそんなに大会が開かれない。時間の都合がつかない場合もある。だが、自分が行くことができないとしても、大会の上位に入ったデッキを知ることはできる。参加者に訊ねれば良い。知り合いがいなくても、電子メディアが有効だろう。メーリングリストやホームページ・チャット・ニュースグループなどでそう言った情報が得られる。また、大きな大会の結果などは雑誌に載ることが多い。
発信の手軽さから電子メディアは情報が非常に早い。個人的な例を言うと、‘97ファイナルで優勝したデッキのほぼ完璧なリストを私が手にしにたのは大会の1週間後だった。だが雑誌に載ったのは3ヶ月後だった。その頃には、メタゲームが何段階も先に進んでいる上、次のエキスパンションも発売されていて、もはや有効な情報ではなくなっている。
しかし、出版メディアも捨てたものではない。電子メディアと比べて見る人が多く、影響力が大きいのだ。雑誌などで紹介されたものは、単にどこかの大会で優勝したというだけでなく、多くの人間がそれを知っているものと認識してメタゲームに組み込むべきだろう。多分、相当数の人間が紹介されたデッキを使おうとするだろう。
こうして集めた情報を元に、トーナメントで大勢を占めるであろうデッキを推測する。
より多くの大会でより上位に入賞したデッキほど、より多くの人が使うように思えるが、実際の話はそうでない。その情報がどれだけ流布しているか考えないとならない。電子メールのやり取りで得た3日前に開かれたローカルな大会の結果と、雑誌に載った2ヶ月前の全国的な大会の結果では、その影響力が違う。
トーナメントに参加する全プレーヤーが、どんなデッキでも組めるように全てのカードを4枚ずつ所有しているはずがない。レアリティの高いカードや古いエキスパンションのカードなどはあまりもっていないだろう。いくら実績があってもカードがなければそのデッキは組めない。高いレアをたくさん使っているようなデッキは使用者が限られてしまう。逆に、コモンなどを中心にして組めるデッキは、使用者が多くなるだろう。最も、このような予想は、何かの決勝ラウンドの様なレベルの高い大会では通用しない。
手軽さの問題はカードの価値だけではない。プレイ技術の難しさや負担などの問題もある。ウイニーデッキのようなプレイングが単純なものは誰でも使いこなせるだろう。だが、パーミッションのようにプレイングも難しいものは、上手に使いこなせる人が限られてしまう。長期戦となるものは、様々な要因からトーナメントには向かない。制限時間一杯に闘って、しかもその間は一時たりとも気の抜けないような疲れるデッキはやりたがる人は少ないだろう。
また、メタゲームは堂々巡りに陥る危険性もある。Aと言うデッキが流行しているならこれに対策したBと言うデッキが強いだろう。そうなれば、Bというデッキを使うプレーヤーが多くなる。それならBに対して有効なデッキCが良いだろう。それだとCに強いDを使うべきなのか、他のプレーヤーがDを使うのを見越してEを使えばよいのだろうか・・。この時、Eと言うデッキが出発点となったAというデッキと一致している、というのはありそうな話だ。
メタゲームの推測を、どの時点で止めて採用するかは、判断が非常に難しい。‘97ファイナルを例に取ってみると、メダリオン・ブルーやポックス・スクロール、緑単オーバーランが多いだろうと推測して5CGを選択したのが塚本プロらであり、5CG系が多いだろうと推測して土地破壊を使ったプレーヤーは少なかったみたいだが、土地破壊が流行すると推測して土地破壊に強いピュアグリーンを選択したのが業師・中村氏らである。実際に優勝したのは塚本プロであった。
こうして、メタゲームの対象とするデッキが絞れたなら、それに勝てるように自分が使うデッキを構築する段階になる。
(4)メタゲーム第1段階:サイドボードでの対策
最も手軽なのは、対象とするデッキへの対策カードをサイドボードに用意することだ。特に色対策カードなど、劇的な効果がある。トーナメントは2本勝負が基本。最初の1本はメインボードのみでデュエルするが、その後の2本はサイドボードをした後にデュエルする。1本目を落としても残りの2本で勝てばよいのだ。
こうしたカードは特定のデッキには効き目があるが、他のデッキには全く役に立たないなんて言うこともある。でも、メタゲームに失敗したとしても、サイドボードにあるカードなら悪影響は少なくてすむ。
裏を返せば、サイドボードで対策しただけでは効果が薄いと言うことだ。
(5)メタゲーム第2段階:メインボードでの対策
さらにもう一歩踏み込んだメタゲームとして、本来ならサイドボードに入れるのがふさわしいカードをメインボードにも入れておく、と言うものがある。色対策カードなどの特定デッキにのみ効果のあるカードは、それ以外のデッキと対戦する時に無駄となるので、普通はメインボードへは入れずにサイドボードに入れる。そう言うカードをメインボードに投入するのだから、対象としたデッキに対する勝率はかなり上がるであろう。と同時に、それ以外のデッキと闘うときに無駄カードになるリスクを背負い込む事も認識しないとならない。
いずれにせよ、メインボードでの対策というのは、対象としたデッキへの対策を増やす代わりに、他のデッキへの対策を減らすと言うことになります。減らすのは、当然、トーナメントにはないと予測したデッキへの対策になる。
(6)メタゲーム第3段階:メタゲームによるデッキの決定
では、メインボードにおいてどう言った対策ができるか。
まず、クリーチャーの選択。「プロテクション:赤」を持つ“サルタリーの修道士(TE)”と「プロテクション:黒」を“サルタリーの僧侶(TE)”の2つはプロテクションの色以外全く同じクリーチャーである。このうちのどちらを選ぶかでデッキに違いが生じる。「沼渡り」を持つ“リバーボア(VI)”と「プロテクション:黒」を持つ“疾風のデルヴィシュ”の二択でも似たような事が言える。プロテクションや渡りなどを持つクリーチャーは、特定のデッキに強くなり、かつ、対象以外のデッキが相手でも無駄にならない。
例えば、カウンターポストが流行していた時代、"Kjeldoran Outpost(AL)"から生成させる白いソルジャートークンによってブロックされないように「プロテクション:白」を持つ“黒騎士”“ワイルドファイアの密使(MI)”"Ihsan's Shade(HL)"や「飛行」を持つ“チビ・ドラゴン(絶版)”、「島渡り」を持つ“リバー・ボア(VI)”などがよく使われた。
次に、除去カードの枚数や種類。クリーチャーのないデッキがある程度を占める場合はクリーチャーにしか使えないカードでは無駄が大きくなる。また、“恐怖”や“闇への追放(TE)”は黒いデッキが多い時には効かない相手が多くなるが、黒が少ないなら強力なクリーチャー除去になる。クリーチャー対策カードの種類も対象のデッキによっては多くしないとならなかったり、少なくても構わなかったりする。
同様の事がクリーチャー以外のカードにも言える。“解呪”と“沈黙のオーラ(WL)”のどちらを使うか、枚数は何枚にするかなどの違いでデッキの性能が変わってくる。
土地の枚数もそうである。土地破壊デッキを警戒するなら、予め土地を多めに入れておいた方が良い。逆に、土地破壊を警戒する必要がないなら、他のデッキに勝てるように土地をギリギリまで削っても構わない。
この場合、なるべく無駄にならない対策カードを選択するというのは賢明な選択だろう。例えば“名誉の道行き(VI)”や“影封じ(MI)”は色の合った相手に使うと高い効果を発揮するカードだが、そうでない相手の時にダメージを軽減するだけの効果で使ってもそれなりに役立つ。また、強力なカウンターデッキ対策カードである“中断(WL)”も、キャントリップがついた低コストのカードなので基本的に無駄にならない。
完全な無駄カードにしないもう1つの手段として、書き換えカードを同時に組み込む、という方法もある。自分のカードを書き換えるというのは、基本的に対カード効果の低い手段であるが、色対策カードの効果というのはその欠点を補って余るほどに強力である。
「このデッキは多い」と言う予想と同じくらい「このデッキはいない、もしくは少ない」と言う予想は重要になる。普通、流行のデッキに対して分が悪いもや強力な対策カードが存在しているようなデッキをあえて使う人は少ないだろう。
冒頭でも述べたが、デッキには相性があり、相性の良いデッキで闘えば有利になる。
対象とするデッキを1〜3個に絞ったなら、そのデッキに対して相性の良いものを選べば良い。選んだデッキと相性の悪いデッキも存在するのだが、そんな相手とトーナメントで対戦することはない。デッキを選んだ段階で、相性の悪い相手が出てこないと推測しているはずなのだから。
相性の問題は、デッキタイプだけではなく色で考えても良い。敵対色には効果的な色対策カードが存在する。プロテクションや渡りなども敵対色のものがほとんどだ(ごく稀に自分の色のものがあるが、友好色のものが存在することは滅多にない)。また、色の特色も敵対色の弱点を攻めるものになるように構成されている。
例えば、緑はクリーチャーが豊富なのに飛行を持つものは弱いものが少しあるだけであるが、その敵対色である青はクリーチャーが貧弱だが飛行クリーチャーだけは充実している。また、白はダメージコントロールに有効なエンチャントが多いが、敵対色である黒や赤にはエンチャント破壊能力はない分ダメージ能力が高くなっている。
対象としたデッキの敵対色でデッキを組み、メインボードでは対象のデッキに有効な戦法を採用し、サイドボードには色対抗カードを用意しておく。この方法なら、対象としたデッキに勝てるデッキが簡単に構築できる。
ここで注意しないとならないのは、対象としたデッキの対策で封じ込めれないようにする事。例えば、カウンターポストを対象とした時にターボステイシスを使ったところで、他のプレーヤー行うパーミッション対策でやられてしまうと言うことである。同様に、黒ウイニーが流行している時に対策として白ウイニーを使っても、結局はウイニー対策にやられてしまう。
他人のデッキを予測しているのは他のプレーヤーも同じ事である。だから、その予想を外して、なおかつ勝てるようなデッキを選択しないとならない。こちらは、相手の使うデッキの対策を充分に用意してあるが、相手は全く対策を用意していないというのが理想である。
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