「サイドボード論」

 大会などで使用するデッキは、60枚以上のメインボードの他に、2本目以降に相手に応じて交換するためにある15枚のサイドボードで構成される。だが、普段デュエルするときにサイドボードを使う人はほとんどいない。そもそも、デッキを組むとき同時にサイドボードも組む人は非常に少ない。ファンデッキで遊んでいるならともかく、明らかにトーナメントデッキを使っている人でもサイドボードを用意していない人は多い。
 だが、大会では2本以上先取が基本とである。1本勝負はまずない。サイドボードなしで勝っても、サイドボード後にあと1回勝たないとならない。逆に、サイドボードなしで負けても、サイドボード後に連勝できるなら勝てる。サイドボード前よりサイドボード後の方が重要であるにもかかわらず、サイドボードはあまり重要視されていない。
 サイドボードを使っている人でも、その中身を見てみると「単にメインボードに入りきらなかった」とか「単に色対策カードだから」などの理由でカードを選んでおり、「本当にそのカードが必要で、サイドボード後に有効に働くか」などと検討して入れている訳ではない。
 メインボードに入りきらなかったカードを多少出し入れした所で、多少バランスが変わったとしても、デッキが劇的に変化するわけではない。色対策カードといってもその効果は様々で、確かに劇的な効果があるが自分のデッキの勝ち方と馴染まない場合もある。
また、色対策カードは敵対色にしか存在せず、自分の使っている色の友好色のデッキや同じ色のデッキを対戦した時にはサイドボーディングするカードがなくなってしまう。さらには、書き換え呪文の餌食となる可能性もある。青自身や青でサポートしている白や黒・赤などのデッキを相手に色対策カードをサイドボードするのは危険が大きい(私の白青騎士書き換えデッキに“憂鬱”をサイドボードしてくる人が何人もいた。彼らは私の“臨機応変”によって自らの“憂鬱”に苦しめられた)。
 無計画なサイドボードにはこういう例がある。白単デッキでサイドボードに“赤の防御円”“暖気(TE)”“名誉の道行き(VI)”を各4枚づつ。この人はとても赤いデッキが嫌いらしい(笑)。だが、実際に赤単のバーンデッキと対戦したとき、メインボードにはこの12枚と交換できるカードがないと気がつく。私だったら、そのデッキがウイニー+ハルマゲドンロックなら“名誉の道行き(VI)”を2〜4枚に“神への捧げ物”を用意しているだろうし、プリズンやパーミッション系なら“赤の防御円”に“ジェラードの知恵(WL)”を用意してるだろう。いずれにしろ、12枚も使わない上に、赤以外にも使えるカード(他にも、手札破壊対策にもなりライフ獲得手段になる“マンガラの祝福(MI)”など)を利用する。
 この話には続きがある。苦労して半分の6枚は投入したものの、今度は相手がサイドボードから入れてきた“ネヴィニラルの円盤”に対処でなかった。1本目でアーティファクト・エンチャントの類をみかけなかったからメインボードの“解呪”を抜いていたのだ。

 私の所属するサークルで主催した中規模の大会で、ほぼ全ての対戦相手(6人中5人)に対し「1本目は負けたもののサイドボード後に2連勝」と言う勝ち方をして優勝した人がいる。1本目が取れないと言うのは問題があるかもしれないが、それでもサイドボーディングの技術だけで勝っているようなものだ。彼はRPGマガジンなどの雑誌にも名が載るほどのプレーヤーであるが、そういうレベルの人とそうでない人との差を思い知らされる出来事であった。
 この文章では、そんなレベルのサイドボーディングを身につけてもらうことを目的としている。

(1)サイドボードの基本理念
 今までのデュエルで得た情報を元に、次のデュエルを有利に闘えるようにカードを入れ替える。その為のカードがサイドボードである。
 カードの入れ替えはメインボードのカードとの1対1の交換で行われる。つまり、サイドボードを使うならメインボードから抜くカードがないとならない。サイドボードを用意する場合、前もってメインボードのどのカードと交換するか計画を立てておかないとならない。入りきらなかった対策カードは単なる無駄である。
 サイドボードするというのはデッキが変化するという事だ。デッキのマナバランス、特に色のバランスが変わるのにも注意しないとならない。交換するカードはコストが同じか軽いものにする、サイドボード後に合わせて土地配分を決定する、などの対策が必要だ。サイドボードに土地を用意するのも策の一つだが、15枚しかないサイドボードに土地なんか入れておく余裕はない。
 また、注意しないとならないのはマナだけではない。対策に奔走するあまり勝つ手段が乏しくなってしまっては本末転倒である。特に速度で圧倒するデッキなどではかえってデッキを弱めてしまう結果になる。

 サイドボードでは色ごとに対策するのではなく、デッキごとに対策するべきである。その方がより効率よく柔軟な対応ができるからだ。場合によっては1つのカードが複数のデッキに共通する対策カードとなる事だってある。
 対策するデッキを決めたら、そのデッキの動きや勝利手段などを考慮し、それを的確に崩すカードを投入する。また、致命的な弱点を抱えているなら、そこを攻めるカードを使用する。
 例えば、青単のカウンターデッキ対策であるなら“青の防御円”を入れるよりは“中断(WL)”や“孤独の都(VI)”などを入れた方が良い。カウンターデッキがクリーチャーで殴る事はあんまりなく、ロックしたりライブラリを攻めたりして勝とうとするので防御円は役に立たない。“知恵の蛇(WL)”の様なサボタージュ能力を持つクリーチャーなら殴ることがあるが、これも防御円では無効化できない。しかし、カウンターを封じ込めるこれらのカードは、相手が絶対に許さない呪文だ。もし“石臼”や“丸砥石(TE)”でライブラリを削るデッキだったら“ガイアの祝福(WL)”が有効だ。カウンターデッキは往々にして除去をカウンターに頼るので、そこを突いてカウンターされない“スクラーグノス(TE)”を入れても良い。

 また、サイドボードに入れるカードは自分のデッキの動きに合致したものを選ぶのが望ましい。デッキの目的と逆行するカードは、単に相手が嫌がるだけで、勝利には結びつかない。それどころか、その分だけデッキの目的に沿うカードを入れられないので、結果としてデッキを弱めてしまう場合もある。
 例えば、黒単相手に“因果応報”は有効なカードには違いない。しかし、こちらのデッキが他にダメージを与える手段を持たない場合、“因果応報”が相手のライフを削り切るより先にこちらが負けてしまうだろう。元々ダメージで勝つデッキでない場合、“黒の防御円”や“日中の光(TE)”などを入れた方が良い。逆にこちらが速攻でダメージを与えて勝つウイニーだった場合は、“黒の防御円”や“日中の光(TE)”で相手のダメージを防いでいるより“因果応報”でより早く相手のライフを削った方が良い。

(2) 苦手なデッキ対策
 デッキ同士には相性がある。どんなデッキにもどうしても分が悪いデッキというのは存在する。そんなデッキこそサイドボードでの対策が必要だ。
 これこそ、最も基本的なサイドボーディングだと言える。分の悪い相手なら、大抵は1本目を落としているであろう。そんな相手に2本目以降は必ず勝たねばならない。


バーンデッキ対策なら、“赤の防御円”“不死身(TE)”“避難場所(ST)”“名誉の道行き(VI)”の様なダメージコントロールカードや、“ジェラードの知恵”や“ボトルノーム(TE)”の様なライフ獲得カードが有効だ。“水流破”の様な赤専用の軽いカウンターも有効である。
土地破壊対策なら“聖なる場所(ST)”や“税収(VI)”が有効だ。また、土地破壊デッキは赤が中心となるので“水流破”は非常に有効だ。逆にキーカードが青い「マナ・オーバーロード」系のデッキには“紅蓮破”が有効なのは言うまでもない。
ロック系のデッキは、アーティファクトやエンチャントを多用するので、そういったものを除去するカードが主な対策になる。“解呪”はもとより、“ハーキルの召還術”“魔力流出”“静寂(WL)”などの全体に効くカードが有効となってくる。
 カウンターデッキには、前にも述べた“中断(WL)”“孤独の都(VI)”“スクラグノース(TE)”の他、、マナを拘束する“アーマゲドン”“冬の宝珠”が有効である。
 ウイニーデッキには、“地震”“神の怒り”“ネヴィニラルの円盤”と言った全体破壊呪文や、“聖域の島”“プロパガンダ(TE)”の様な攻撃を制限するものが有効である。また、バーンと同様にダメージコントロールやライフ獲得も有効な手段となる。

 でも、いくら苦手だからと言っても、誰も作らない/使わないようなデッキの対策をするのは無意味である。

(3)相手のサイドボード対策
 自分がサイドボードできるのと同様に相手もサイドボードをしてくる。だから、相手のサイドボード後の姿を想定し、それに対策する事が重要だ。
 一番深刻なのは白の持つ“防御円”各色だろう。特に赤と黒にはエンチャントを破壊する手段がない為、致命的なカードである。“ネヴィニラルの円盤”で吹き飛ばすのが1番手っ取り早いのだが、アーティファクト破壊手段が豊富な白相手ではそれも難しい。赤だったら"Anarchy(IA)"や“黙示録(TE)”などで破壊したり、“白兵戦(TE)”で無効化する位しかない。黒だったら“絶望の荒野(MI)”“悪疫”でライフを失わせるか“憂鬱”で“防御円”の起動を重くする位しかない。素直に他の色を入れた方が良いだろう。
 また、色対策カードに厳しいものがある場合、“臨機応変”“魔法改竄”“幻覚(MI)”などの書き換え呪文が効果的だ。最低でも無効化でき、大抵の場合は本来ならこっちが被る被害を相手に跳ね返す事ができる。
一般的には色・地形の両方を書き換えられる“幻覚(MI)”の方が使い勝手が良いように言われるが、地形関係で厳しい効果のものは“因果応報”程度しかないので、パーマネント以外も書き換えられる“臨機応変”の方が有効だ(青デッキ最大の敵“スクラーグノス(TE)”にも効く)。“紅蓮破”対策を目的として“水流破”を入れるなら、同じマナで同じ事が出来る“臨機応変”を薦めておく。

(4)無駄カードの交換
 クリーチャーレスデッキを相手にクリーチャー対策呪文を引いても無駄だ。黒単デッキ相手の“恐怖”も多分無駄だろう。その他、ライブラリ破壊デッキ相手のダメージ軽減呪文やライフ回復呪文、“冬の宝珠”デッキ同士の時の“冬の宝珠”、バーンデッキ相手の時の“ネクロポーテンス”や“ズアーの運命支配”、書き換えデッキ相手の時の“十字軍”や“不吉の月”など、全くといって良いほど役に立たないカードや逆に致命的になるカードなどを役立つカードと入れ替えるのもサイドボードの大事な役割である。
 ただ、注意しないとならないのは、初戦でアーティファクト・エンチャントが入っていないからといって、サイドボード後も同じとは限らないと言うことだ。クリーチャーと異なり、アーティファクトやエンチャントはコンセプト的に不要という事はありえず、また、サイドボード用に適当なカードが多い。

(5)流行デッキ対策
 誰もが作りトーナメントに持ち込むようなデッキなら、大会で相手する確率は高い。安いカードで作れてプレイングも安易なウイニーやバーンは、何時でも何処でも多いだろう。また、雑誌などで紹介されたデッキ、特に大きな大会で入賞したなど実績のあるものならそれを使う人も多いだろう。
 そう言ったデッキへの対策カードを用意しておけば、何回もお世話になるだろう。10回に1回の割合で使うカードよりも2回に1回使うカードを入れておいた方が有利である。

(6)自分のデッキ対策
 意外に見落としがちなのだが、どんなに強くて隙のないデッキでも勝率が全くの5分、ほとんどプレイングと運で勝負がついてしまうデッキが存在する。それは自分自身である。えてして、自分が思いついたことは他の人も思いついているのである。自分と同じ様なデッキと対戦することはよくあるだ。

 個人的な例を挙げる。‘97年の1月初頭、まだ冬休みだった頃、アイスエイジとフォールンエンパイアが消え、それまで制限カードであった“黒の万力(絶版)”“露天鉱床(絶版)”なども禁止カードになるなどして大きく変化したTYPEII環境において私は1つのデッキを構築した。同時期に、ある友人が私とは別に1つのデッキを構築した。「新しいデッキを作ってきたんだ」「そう、こっちも新しいの作ってきたから試してみよう」などと言いながら回したデッキがどちらも青白のフルパーミッション。しかも、"Thawing Glaciers(AL)"で土地を集めつつ“夢での蓄え(MI)”で手札を回転させるなどという展開が全く一緒。終いには"Kjeldoran Outpost(AL)"を出せばそれを“政略(MI)”で奪い合う所まで一緒である。
 サイドボード後も凄い。“破裂の王しゃく”がパーミッション相手に有効なのは基本だとしても、互いに満を持して出そうとしたカード(そして、壮絶なカウンター合戦を展開したのは言うまでもない)が"Helm of Obedience(AL)"である。
 デュエル後に比べてみたらメインボード60枚中違うカードは3枚程度。サイドボードもほとんど一緒だった。みんな考えることは同じである。原型となったデッキが幾つか先行していたと言え、当時のレギュレーションでみんなカウンターポストを思いついたのである。
 ちなみに、その月にあったAPAC予選でもカウンターポスト1色。まだ初期であった為、いろんなタイプのカウンターポストが咲き乱れていた。その予選で優勝したのは成功したカウンターポストキラーデッキであり、2位以下5位までに入賞し日本代表となった4人は全員カウンターポストだった。私自身カウンターポストで挑戦し、中村氏(RPGM誌上で有名な“業師”)のカウンターポストキラーデッキと激戦を演じたり(時間切れで引き分けだった・・。あと5分あったらなぁ・・長考で時間を稼がれるだけか)、大橋氏(代表となってAPACへ行き、併設されたオープン大会の方で優勝した人。金澤尚子の漫画にも良く登場する。ソルジャートークンで有名・・らしい)のカウンターポストとアウトポストの奪い合いをしたりした。

 話を戻すが、トーナメントで有効なデッキ程みんな使おうとする。当然のことだ。同じデッキであるなら相性はイーブン。サイドボードの差が顕著に出る対戦と言える。私の例の場合、“破裂の王しゃく”"Helm of Obedience(AL)"がそれにあたる。ちなみに、そのカウンターポストのサイドには“持てる者の檻(MI)”や“マナ・ショート(絶版)”なども、同デッキ対決のために用意してあった。

(7)トランスフォーマー
 さて、ここまで読み進めてきたならば、サイドボードが情報戦であり読み合いの勝負であることが解るだろう。今まで紹介した正攻法に加えて奇策も示しておこう。
 サイドボードによってデッキを全く別のものにしてしまい、相手の予想の裏をかく。一番単純で成功率の高いのはクリーチャーレスデッキにクリーチャーを投入する事。他にも、デッキの色を1つ変えてしまうものや、遅めの防御型デッキが速攻デッキに変化するもの、ライブラリを削って勝つデッキがダメージで勝つデッキになるもの、など手法は色々ある。
 ただ、これらは成功例が少ない。それは、デッキが変わってしまうので調整が難しい、デッキ対応の柔軟性が乏しい、奇策であるが故に1回しか通用しない、など理由からである。


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