○序
 マージャンのプロは皆、イカサマ技を熟知していると言う。それは、自分が実戦で使うためではなく、手口を知ることで相手が使ってきた時にそれを看破するためであると言う。
 これはTCGにおいても同じことが言えると思う。一定水準以上レベルで競技的にアクエリを楽しみたいなら、全国規模の大会などでは対戦相手がイカサマを使ってくる可能性を考慮しないとならない。
 この文章では、TCGにおける初歩的なイカサマ手口を幾つか紹介し、それを看破し、無効化する方法について述べる。
 と、ここまでおどろしい事を書いたが、イカサマと疑われる行為を知りそう言う行動をしない事でお互いに気持ちよくアクエリをできるようにするのがこの文章の目的である。

○イカサマを防ぐには・・・
 アクエリ自体はβ版発売からまだ3年足らず、TCG全体でも9年程度の歴史しかない。TCG界が独自に発達させたイカサマ技と言うよりも、手品のトリックや麻雀で使われるイカサマ技の応用が大半を占める。

・積み込み
 完全にランダムでないとならないデッキを、特定のカードを引きやすいように仕込んでおくこと。ベストの初手7枚を用意してデッキの1番上に置いておくものや、多段階ブレイクの1段階目と2段階目を重ねておくもの「キネティックショットとウェイトレス」や「ファラオの呪いとタロットディーラー」などの組み合わせを重ねておく、などがある。
 こんなものは、相手のデッキをカットするときに、おざなりに切らず、1枚ずつ取って幾つかの山に分けるシャッフルを行えばほぼ完全に防げる。例えば、5つの山に分けるなら、最初の5枚を1枚ずつに分けて置き、次の5枚を1枚ずつ最初の5枚の上に置く、と言うのを繰り返すのだ。端数が出たら適当に置くとして、最終的に5つのカードの山ができる。アクエリに限らず、これは日本のTCG界では一般的なシャッフルである。
 また、ドロー+1を持ったキャラクターを安定して引けるように、例えばドロー+1を15枚入れているならドロー+1枚と他のカード3枚を交互に置く積み込みもある。
 こういう積み込みも、4枚や8枚など4の倍数の山に分けるシャッフルをすると逆にドロー+1が固まってしまい、逆に安定して引けなくなってしまう。こういう、相手の積み込みを元に戻すシャッフル技術はリバースシャッフルと呼ばれている。
 対戦前に相手のデッキを4枚なり5枚なり6枚の山に分けるシャッフルをするのが一般的になると、積み込みが無効化されたり、リバースシャッフルによって逆効果になったりして、積み込む人がいなくなるので、ぜひ、推奨したい。
 1時期、別のTCG(マジック)では、「対戦前に相手のデッキをシャッフルするのは、相手を利する行為だからしない」と言う主張をしている子供が多かったこういう主張はイカサマ師を利するだけであるし、実際の所、シャッフルで積み込みが崩れるのを嫌ったイカサマ師に騙されていただけであった。麻雀でも、面前主義のリーチ麻雀を流行らせたのは鳴きによってツモ順が変わって積み込みが崩れるのを嫌ったイカサマ師という話がある。
 対戦前に相手の積み込みを崩すシャッフルを行うのは自衛と言う意味もあるが、自分も同じく積み込みを崩すシャッフルをされても問題ない=自分は積み込みなんてしていない、と言う意思表明である。相手がこういうことで文句を言ってきたら、イカサマを疑われて気分を害した人間ではなく、積み込みに失敗したイカサマ師だと疑うべきだろう。

・マークド
 アクエリに限らずTCGの前提条件として、裏返っているカードは裏からでは判別がつかない、と言う事がある。自分のデッキのカードが裏からでも判るのであれば、これは非常に有利に働く。次のダメージを受けて良いのか、チャージをして良いのか、チアリーダーにチャージした方が良いのか、手札にあるカードをパワーカードとして挿して良いのか、ドローするべきなのか。これらの選択を非常に有利にできてしまう。
 カードが汚れていたり印がついているなら、裏が不透明のスリーブを使ってもらえばよい。逆にスリーブの種類が違っていたり、汚れていたりするなら、スリーブを外してもらえばよい。相手に疑われないようにするなら大きな大会の時は新品の不透明スリーブを使えばよい。
 相手のデッキの上下が揃っていない場合もある。コストとして払ったカードや除去されたカードを捨て札置き場に置くときに方向に注意して置かないとすぐに不揃いになってしまう。自分の時はシャッフルする時に直せば良いがこれも、キーカードだけは上向き、とかやられると困る。
 相手のデッキが不揃いなのに気が付いたらどうするか。シャッフルする時に逐一、直してやるのが一番害のない方法であるが面倒である。
 手間的に簡単な方法は、デッキの半分を上下逆さまにしてシャッフルする事である。相手には一見するとイカサマが成功しているように見えるが、実際は法則が崩れている。ここ一番と言うところで裏目に出てくれてイカサマ師が自滅する場合もある。
 上向きと下向きで選り分けるシャッフルと言う手もあるが、これは相手のイカサマを利用した明らかな積み込みになるので、お勧めしない。相手のイカサマを無効化する為とはいえ、自分もイカサマをしたのでは意味がない。
 スリーブを使っている場合、入れる方向が違う場合もある。これは、デッキの上下が揃っていない場合と違い、シャッフルの仕方で無効化できない。選り分けるシャッフルをするぐらいなら、素直にジャッジを呼ぼう。上下が揃っていない場合と違って、明らかに意図的なイカサマだろうから。
 SP加工のカードは他のカードと判別しやすい。保存状態が悪いと時間が経つにつれて反ってくる。デッキにはSP加工のカードは入れないのが賢明だろう。アクエリの場合、入手困難なカードをPPパックと言う形でSP加工のものを安く供給していると言う場合が多いので難しいかもしれないが、ないカードは知り合いから借りてでも何とかしたほうが良いだろう。
 次善の策だが、逆にSPカードを大量に混ぜで、SPカードがキーカードであると言う状況をなくすと言う手もある。別のTCG(やはりマジック)でSP加工のカードをデッキに混ぜてマークドの反則を取られた事例があるが、これはキーカードのみSP加工であったから反則に取られた訳で、SP加工が入っているデッキ=マークド含みのデッキと言うわけではない。が、やはり次善の策である。

・ドロー/チャージのゴマカシ
 初期手札が8枚あったり、序盤に多めに引いたり、ライブラリが尽きかける終盤では少なめに引いたり。ドローの枚数は勝負を大きく分ける割に、誤魔化されてもなかなか気付きにくい。お互いに勘違いしていてそのまま何ターンも進行する場合もある。チャージの数も同様である。また、ディスカードフェーズに手札が7枚を超えていても、ディスカードしない場合もある。これらの間違いは故意のイカサマと過失によるミスの判別がつかない。
 ドローする前に引く枚数を宣言する。1枚ずつデッキから取り、すぐに手札には加えずに、別の場所に置いておき、宣言した枚数であることを確認してから手札に入れる。チャージも同様にする。一例だがこうした手順を踏めばイカサマの入り込む余地はない。手札を持った手をデッキの上に重ねて引かれては、枚数を誤魔化されてもわからない。
 さて、相手のイカサマを防ぐ方法だが、相手の手札の枚数を常に尋ねるのが効果的だ。デッキの残りが少なくなってきたら、デッキの残り枚数も尋ねよう。相手の手札の枚数をこちらが気にしている事をアピールすれば、それが牽制になって、誤魔化すことができなくなる。プレイミスがあっても、大事に至る前に気が付く。

・ゲームの外からカードを持ってくる
 ポーカーやブラックジャックなどのトランプゲームや麻雀などで言うエレベータと言うイカサマは、ヒザなどテーブルの下にカードや牌を仕込んでおき、隙を見て手札と入れ替える手口である。これはTCGでも有効なイカサマである。
 ポケットやカバンの中からカードを持ってきて手の中に隠しておき、手札と入れ替えたり、ドローしたふりをして手札に加えたりする。もっと大胆になると、目を離した隙に手札が増えていたりする。また「サイドボードにImpules」と呼ばれる、デッキ以外のカードの束にサーチ系のカードを使ったり、そこからカードを引いたりするイカサマもある。
 麻雀では、常に片手のみを使ってプレイし、使う腕は常に台の上に出しておく(=台の下に手を入れてはいけない)と言う取り決めがある場合もある。他のTCGには、「手札は常に机より上の保持しておく」と言うルールがあったりする。いずれもこの手のイカサマを防ぐ為の手段だ。試合の最中には、不用意に机の下へ手を入れたりカバンの中をあさったり、ゲームに使っていないカードを触るべきではない。
 また、試合を始める前に、デッキ以外のカードは机の上には出しておかずに片付けてしまおう。相手が置いていたら、言って片付けてもらおう。
 相手が疑わしい行為をした場合「ちょっと待って」とか言って、カードを隠したと思われる手が手札やデッキを触る前に掴まえてしまおう。手の中にカードがあればイカサマの明確な証拠になる。他にも、ひざの上やポケットの中にカードがあれば限りなく疑わしい証拠になる。
 ドローしたときや隙を見て手札に加える為に、手の中にカードを隠しておく技術にパームと呼ばれるものがある。パームをしている時の手の格好は、野球の手引書でパームボールの投げ方を参照すればよい。パームボールを投げる時の球の握り方と同じような形である。
 カジノのディーラーは、手のひらを広げて裏表を見せる仕草をする。これは、手の中にチップやカードを隠していないことを証明する行為だそうだ。手品でも、手の中にタネを仕込んでいないときは、それをアピールするように手を握ったり開いたりしている。カードをパームしていたらそう言うことはできないので、自分がドローする前には、そう言う素振りしてみせるのも、イカサマをしていないアピールになると思う。
 まあ、ここまでやると大げさかもしれないので、相手が机の下に手を入れた段階で「(カードを入れ替える)イカサマをしていると疑われるから止めて」と注意を促すのが穏健な方法だろう。やましい事がなければ、やめてくれるだろう。

・覗き見
 背伸びしたり首を伸ばしたりして相手の手札を覗き込んだり、シャッフルをしている最中にデッキの底のカードを盗み見たりする。中には、相手のシャッフルしている時に故意にカードを落としたりして表返して見たりする、大胆な偵察行為もある。
 これは、相手の動きをみて注意すると同時に、自分の方も不用意に見られないように注意するしかない。相手のデッキを切るときは下手に表返さないように注意するべきだろう。また、相手がこっちのデッキをひっくり返してしまったら・・・ジャッジを呼ぶしかないですね。
 あと、デッキケースから出すとき、底にあるカードが相手に見える場合もあるから、デッキケースにしまう時は、底のカードを風水師やタロットディーラーなどのデッキを特定されないカードにしておこう。

・コスト支払い時のトリック
 ヴァンパイア・メイドの様にプレーヤーに対してアタック宣言すると手札に戻るブレイクや、千早巫女”斎木奈々”みたいな特定勢力のネーム持ちブレイクをプレイする場合は支払ったコストが手札に戻るブレイクがある。こういうモノが場にある場合、先にコストを支払ってから使うカードを宣言されると、手札に戻るパワーカードを選択できることになる。仮にヴァンパイア・メイドから1コスト支払って内容を見て、それが手札に欲しいカードならアタックを宣言し、不要なカードであればブレイクか何かのコストに使う。
 これは元々「チアリーダーのトリック」と呼ばれている。チアリーダーはコストとして支払ったカードを手札に戻せるエフェクトを持っているが、何も宣言せずにチアリーダーから1コスト支払い、カードを見て手札に戻すか別のカードの使用コストにに充てるかの選択する、と言うイカサマはだ。
 コスト支払いの際は、「アタック宣言します」とか「このカードをプレイします」などと先に宣言してから、パワーカードに手をつけた良いだろう。
 相手がプレイしてる時、この辺りの宣言を曖昧にしているなら、最初は注意を促し、それでも改善しない場合はジャッジを呼ぶべきであろう。

○結
 残念ながら、アクエリにはトーナメントにおける振る舞いに関して明文化されたルールがほとんどない(ブロッコリーの内部的に存在していたとしても一般のプレーヤーが見ることができないのなら、それはないに等しい)。相手が疑わしい行為を取っていたとして、どういう風にジャッジに訴えれば良いか判らないし、それがどのように処理されるかわからない。
 自らジャッジになればそう言う事が判るようになるかもしれないが、大会を開く訳でもなく、そういう情報を得る為だけにジャッジになると言うのはジャッジシステムの精神に反している。
 基準が明らかにされない理由について、以下の2つが想像できる。
 1つは、明確な基準を作ると、それを利用し些細なミスを突いて相手を反則負けにしようとするプレーヤーが現れると言う懸念。これにはアクエリ内に実例がある。初期のアクエリでは、パワーカードフェーズにチャージを行う順番が決まっていた。が、ルールブックの隅に載っている些細な決まり事で、講習会などでは触れられずほとんどの人が気にしていなかった。初期の全国大会で相手がこの順番を守らなかったと言う抗議をジャッジにしたプレーヤーがいた。当然、その抗議は受け入れられず、直後のQ&Aでも、パワーカードフェーズにチャージを行う順番は問わないと言う裁定が出た。この件に関しブロッコリーの対応は讃えるべきものであるがそれはさておき、勝ちしか見ていないプレーヤーによってこういう行為の拡大再生産がなされれば、確実にアクエリをつまらなくなる。
 もう1つは、全国的なイベントと親睦目的な草の根レベルの大会では同じ基準を使うことができないという事。上に挙げた疑わしい行為も、初めて大会に来た初心者と各地の予選を勝ち上がってきた熟練者が行ったのでは、疑わしさの度合いが違う。前者は明らかに無知による間違いでイカサマを行うつもりはなかっただろうが、後者はイカサマの可能性は限りなく高い。この2者を同じ基準では裁けない。

 マジックから入ったプレーヤーからすれば、こういう規定がない事自体が不正の温床だと思うだろう。だが、ブロッコリーは無知が故に不正を放置している訳ではない。マジックの成功例・失敗例を充分に研究していることは、これまでの販売戦略やその成功によって明かである。そもそも、マジックですら、フロアルールやペナルティ・ガイドラインが整備されているからと言っても、イカサマ行為が一掃されているとは言い難い状況であるのだから。

 理想を言うと、ここに書いた「イカサマの余地のない行動」というのが大会でのマナーとして定着する事で「疑わしい行為」=「イカサマの意図あり」と解釈される状況になって欲しい。イカサマは現場を押さえない限り証明するのが難しい。「疑わしきは罰せず」では「イカサマはやったもの勝ち」の状況になってしまう。再三、引用して悪いが、別のTCG(マジック)では「疑わしきは罰せず」ではイカサマがなくならないことに気づき、「疑わしきは罰する」と言う方向を打ち出した。
 最後に繰り返すが、こういう用心は、大会の中でのみ行うべきものである。フリープレーなどで気にする必要はない。友好的にアクエリを楽しむ場では相手のイカサマを疑う必要などないからだ。


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